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土足厳禁とスリッパ
英国で誰かの家を訪ねたときにとまどうことの一つに、靴を脱いで入るのか、土足のままか、というのがあります。
かつては「西洋では家の中で靴を履いている」というイメージがあったかもしれませんが、現代の英国では、これは必ずしも事実とはいえません。私がこれまでお邪魔した家庭では、靴のまま入っていい家もあれば、玄関口で履物を脱いでいく場合もありました。
では、土足オッケーかどうかをどうやって確認するのか?
当然といえばそれまでですが、玄関口で家主に「靴は脱いだ方がいいですか?」と聞くのが確実です。「もしよければ靴は脱いでもらえる?」と言われたら、それに従います。靴を脱いだ後は、靴下か裸足のまま、家の中を歩くことになります。
また、パーティーなどで大勢の人が集まるときなどは、ホストに確認せずとも、玄関にたくさんの靴が寄せ集まっていれば、土足厳禁のサインだと思って間違いありません。
ホストによっては、普段の生活では靴を脱いでいるけれど、パーティーのときには、ゲストには靴のまま入ってきてもらうという場合もあります。フローリングを好む人も増えているとはいえ、英国ではキッチン以外はじゅうたんやカーペットを敷き詰めた部屋ばかりという家もまだまだたくさんあります。それでもお構いなしにパーティーに集まった人々は、ふかふかのじゅうたんの上を靴で歩き回ります。泥の付いたスニーカーで歩く人を見ながら、(自分も土足のくせに)なんだか落ち着かない気がするのは、やはり自分が日本人だからでしょうか。
逆に英国人が日本の家庭で驚くのが、玄関でスリッパに履き替えるという行為。なぜなら、英国では訪問先で靴を脱ぐように言われても、日本の家庭で用意されているような「お客さま用スリッパ」というものは出てこないからです。
以前、日本に一時帰国中、夫と2人で実家近くの居酒屋に何度か出掛けました。その店は入り口にロッカー式の靴箱があり、そこで靴を脱ぎます。夫は日本の習慣にもだいぶ慣れてきたので、スリッパに履き替えることに問題はありませんでした。ところが、会計をお願いした後に事件が起こりました。トイレに行って戻ってきた夫の足元に何か違和感が。というのも夫は、トイレ用の下駄風サンダルをそのまま履いてきてしまっていたのです。
英国では、レストランはもとより、一般家庭でもトイレでスリッパを履き替えるという習慣はありません。なので、トイレでのスリッパ履き替えは、夫にとってはかなり難易度の高い課題だったようです。といいつつ、翌日出掛けた焼肉店で私自身が同じ失敗をしました。単にそそっかしいだけなのですが、夫には英国暮らしが長くなったせいだと言い訳しておきました。