19
お土産は必要ない?
日本への一時帰国の際、頭を悩ませるのがお土産です。日本ではできるだけたくさんの人に会いたい。ただ、会う人全てにお土産を持っていくとなると、なるべくかさばらないような物を選んだつもりでも、膨大な量になってしまうのが困りもの。帰省のたびに紅茶やらショートブレッドやら、ロンドンの博物館オリジナルのエコバッグなどを、スーツケースいっぱいにパズルのように詰め合わせている私を見て、夫はいつも「日本人は大変だね~」とあきれ顔です。
それというのも、英国の人々がどこかに旅行に行った際、家族や友人、ましてや職場やご近所にお土産を買って帰るという習慣がないから。
日本でなら、観光名所であればたいてい「○○せんべい」「○○クッキー」といった、ご当地の名前やキャラクターのついたものが売っています。ところが「義理土産」の習慣がないせいか、英国ではガイドブックの最初のページに出ているような観光名所でも、ご当地土産が売っていないどころか、お土産を売る店さえ一つもない、ということも珍しくありません。
以前、ロンドンのキングス・クロス駅を頻繁に利用していました。ここは「ハリー・ポッター」シリーズに登場する9と4/3番線のホームがあることで知られています。今でこそ、駅構内にハリー・ポッター・グッズを買えるギフト・ショップがあります。でも、2012年にワーナー・ブラザース経営の同店がオープンするまでの長い間、ハリー・ポッターに関するお土産を買えるところなど全くありませんでした。それどころか、9と3/4番線のホーム(の印)は、切符を持っている人しか入れないプラットフォームにあり、それもたびたび場所が変わっていました。つまり、よほど気を付けていないと、すぐには見つからない場所にあり、記念撮影をする人もまばらという程度でした。そこを通りかかるたびに「これが日本ならすぐにキーホルダーやらクッキーやらのお土産物を売る店が目の前にできるに違いない」と日英の違いを感じたものです。
英国でお土産屋さんが並んでいるのはたいてい海辺のリゾート・タウン。そこでもあるのはせいぜいファッジと呼ばれるキャラメル風のスイーツや、ロックと呼ばれる金太郎あめ風のキャンディーくらい。ほかにはボールペンや冷蔵庫用のマグネットがお決まりのお土産品。ただ、これらは「スーベニア」と言って、人へのプレゼントではなく自分の記念のために買うもの。ご近所用にいくつも買っていくということはありません。
旅行のお土産は誰も期待していない一方で、食事やパーティーに招かれたときの手土産が欠かせないのが英国。それにはワインか花、チョコレートのどれか、またはその組み合わせを持参するのが定番です。