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Wed, 27 November 2024

第278回 シティのアスファルト舗装

シティで最も交通の激しいバンク駅前の五差路で大規模な工事が始まったのは2017年のことでした。最近ようやく終了したこの工事により、イングランド銀行前のスレッドニードル通りにはサステナブル排水システム(SuDS)が取り入れられ、透水性の高い通りになりました。ちなみにこの通りは1869年、シティで初めてアスファルト舗装されました。

Threadneedle Street スレッドニードル通りは透水性の高い通りに変化

当時のアスファルト舗装は砂や小石を結合するのに天然の瀝青れきせいを使ったため撥水性が高く、雨天時には馬車が水で滑りやすく不評だったそうです。それで思い出したのが、大英博物館の第55展示室にある紀元前2700年ごろのメソポタミア文明、ギルガメッシュ叙事詩の粘土板です。その粘土板に描かれた洪水伝説には、来たる大洪水から生命の種を守るため、瀝青と松ヤニを塗った船を作って備えよ、と書かれています。それは旧約聖書の創世記「ノアの箱舟」の物語にとてもよく似ています。

洪水伝説が書かれた粘土板(大英博物館蔵) 洪水伝説が書かれた粘土板(大英博物館蔵)

また、同展示室にある新バビロニア時代(紀元前626~539年)の粘土板にはレンガを高く積み上げ、瀝青で接着、固定してジッグラトという大きな神殿が作られたことも書かれています。実はこのジッグラトが旧約聖書の創世記「バベルの塔」の物語のモデルになったといわれています。バビロニアはチグリス・ユーフラテス川の下流にあるので、上流にあるコーカサス山脈の雪解けや降雨で、もともと洪水のリスクの高い地域でした。

バベルの塔のモデルになった粘土板(大英博物館蔵) バベルの塔のモデルになった粘土板(大英博物館蔵)

建築物に瀝青を塗ることは洪水の防災策だったのでしょう。一方、人々が一つの建築物に集まったことが旧約聖書の教えに背いたこと、つまり、広く各地に分散せよという神の指示に従わなかったことになり、その罰としてお互い意思疎通できないよう、言語がバラバラにされ、人々は各地に散らされたというのが「バベルの塔」の一般的な解釈です。言語が異なれば考え方も異なります。考え方が異なれば人間同士の争いも増えます。

 神殿(ジッグラト)の模型図 神殿(ジッグラト)の模型図

16世紀の宗教改革時にピーター・ブリューゲルらフランドルの画家たちは、キリスト教宗派の分裂を暗喩してこぞって「バベルの塔」を描いたといわれます。しかし、その後の人間社会は言語も宗教も統一されないまま、例えばシティの高層建築はますます高くなり、また、270以上の国の人が300以上の言語を話しながらこの地区で働き、発展しています。そしてシティの道路や建物は雨水をはじいていた過去とは異なり、逆に雨水を受け入れ、地下に透水することで都市型の水害を防止しようとしています。

 ブリューゲルの「バベルの塔」(ウィーン美術史美術館蔵) ブリューゲルの「バベルの塔」(ウィーン美術史美術館蔵)

第276回ロンドンの二つの港と米国入植(前編)

寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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