第94回 お散歩編: 春分の夜空の向こうに
もうすぐ春分。太陽が春分点を通過するときが春分でしたっけ? 急に天文現象が気になり通勤の帰途、リバプール・ストリート駅近くのパブ「アストロノマー」に立ち寄りました。「天文学(Astronomy)」の語源はギリシャ語で星(astron)の法則(nomos)。一方、天体と生活の影響を研究することを星(astron)の学問(logos)で、「占星術(Astrology)」と言います。
パブ「アストロノマー」
パブの店内にはたくさんの天文資料や古い星図、古代からの天文測量器アストロラーベが飾ってあり、エール1杯で星空遊泳ができます。そもそもメソポタミア文明では早くから天体研究が進められ、紀元前7世紀の星座早見表には紀元前3300年ごろの星空の様子が描かれているそうです。また、紀元前6世紀に作られたムル・アピン粘土板には66の星座が記録(現在は88の星座が認定)され、新バビロニアが占星術の発祥地と言われる所以です。
紀元前7世紀の星座早見表(大英博物館所蔵)
新バビロニアは古代七不思議の一つ、空中庭園やバベルの塔(ジグラット)を建設した国としても有名です。1 年を12カ月、1週間7曜日、1日24時間と定めたのもこの国。曜日の「曜」とは日が羽ばたく「輝く天体」の意味。彼らは目視可能な5つの惑星と太陽、月の7つの天体を見かけ上の公転周期から遅い順に並べ(土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月)、それぞれの星に宿る神が1時間毎に交代して世界を支配すると想定しました。
「バベルの塔」のイメージ
この順番で土星の神から始まり、24時間過ぎた翌日の25番目は太陽の神、その翌日は月の神から始まります。こうして土、日、月、火、水、木、金の7曜日が決定。さらに月の4つの現象(朔→上弦→望→下弦)がほぼ7日毎に起きるのでその節目を休日としました(後にキリスト教はキリストが復活した日曜を週初めに変更)。彼らの研究は天文学だけでなく数学や医学にも及び、中世には「星の影響の病=インフルエンザ」という単語も生まれます。
七曜日制の始まりは 2600年前!?
パブ「アストロノマー」の棚に大事に保管されているアストロラーベは、17世紀終盤まで天文術や占星術、航海術に使われていました。星の位置から時刻を測定し、太陽がどの方向から出るか、東の地平線から何座宮が昇るか、天空の動きを手の平の上で再現できます。英国で初めてこれを紹介したのが「カンタベリー物語」の著者、ジェフリー・チョーサー。息子に書いた手引きだそうです。寅七も早速、アストロラーベで星空の散策ガイドに挑戦。「春の夜空に輝くのは乙女座の一等星スピカ……」。えーと、あれれ? 今夜もロンドンには曇り空が広がっています。
天文測量機、アストロラーベ