第22回 大空を舞う黄金のバッタ
王立取引所を訪れるならバンク駅の3番出口がお勧めです。階段を駆け上がると突然、壮大な王立取引所の建物が正面に飛び込んできますから。おっと、でもその前に忘れていけないもの、階段下の横にあるトイレです。これ、現存する最古の地下公衆トイレと言われています(設立時期には1855年説と1885年説があります)。当時の使用料金は1ペニー。英語の慣用句「Spenda penny」=「トイレに行く」はここが語源だそうです。
「1844年に完成した現在の建物は3代目。
現在はオフィスやショッピング・モールとして機能している
さて、王立取引所はシティの商人トマス・グレシャムとシティのギルド=職人組合が協力して1565年に設立した商品取引所が発祥です。1666年のロンドン大火と1838年の火災で焼失し、現在が3代目の建物になります。建物正面のペディメントと呼ばれる破風の中では、豊穣の女神を囲んでたくさんの国の商人が取引しており、女神の台座には聖書からの引用「大地とそこに満ちるものは主のもの」が刻まれています。
設立者のグレシャムは羊毛ギルドの組員、かつ、英国王室の代理商人として世界初の商品取引所、ベルギーのアントワープ取引所に派遣され、羊毛だけでなく高価な商品取引を行ったり、英国王室の戦費を調達したりと、商社マン & 金融家として大活躍していました。ところが、スペインのフェリペ2世が新教徒を弾圧してアントワープを攻撃したため、取引所が機能不全に陥り、グレシャムとシティ市がロンドンに同様の取引所の設立を企図したのです。
グレシャムが設立したマーティンズ銀行の名残
グレシャムは私財を投じて建築費用を捻出。建築用地はシティ市と、シティに古くから存在する、特に「GreatTwelve」と呼ばれる12のギルドが提供しました。ですから取引所の正面の鉄扉には、グレシャム家の紋章だけでなく、12のギルドの紋章も象られていますし、広場にある12本の電燈それぞれの足元にも各ギルドの紋章が刻まれています。
それぞれ12のギルドの紋章が
圧巻は天空を舞う黄金のバッタです。取引開始と終了の時刻を告げる12時と6時に鐘が鳴る鐘楼の頂にグレシャム家の象徴=バッタが飾られています。彼の遺志を継いでシティに設立されたグレシャム・カレッジの紋章にもバッタが使われていますが、このカレッジでは400年以上も、高名な教授が庶民に対して無料の公開講義を続けており、ここからロンドン王立協会が誕生したことはご高承の通りです。黄金のバッタは天空からシティの繁栄を見守りながら、市民が教養を高め、人生を豊かにすることを期待しているのです。
一般向け無料公開講義を続けるグレシャム・カレッジ