第1回「ロイヤル・バレエ」ダンサー
20 May 2010 vol.1250
去年演じた「オンディーヌ」よりティレニオ
©ANDREJ USPENSKI
職業はバレエ・ダンサーという肩書きだが、ただのバレエ・ダンサーではなく「ロイヤル・バレエ」ダンサーだと人には話している。
バレエ団は世界各地にたくさんあるが、一般的に有名な作品「白鳥の湖」をみても、ステップも曲のテンポも異なれば、使うテクニックも表現方法も違う。野球で例えると、同じバットを振っていても、王貞治の「一本足打法」とイチローの「振り子打法」くらい違う。
ロイヤル・バレエ・スクールではロイヤル・スタイルの基礎を一から教わったのだが、日本で教わったものとは違うことも多く、とても苦労した。舞台上での立ち方、歩き方からお辞儀の仕方まで、すべてここで教えてもらった。入団以来、移籍したことがないので、他のバレエ団のことを話せと言われると困ってしまうが、ロイヤル・バレエについてなら自信を持って伝えられる。
ロイヤル・バレエは、人の記憶に残るバレエを愛する集団だということ。正確に言うと「記録よりも記憶に残るバレエ」を目的にしていると感じている。
その特徴の一つと言われるのが演劇性。ダンサーへの指導でも、ストーリーを持った作品を上演するときには必ず言われることがある。「どんな役でも一人ひとりその役のバックグラウンドまで考えなさい」「人が舞台に立つ以上、その人には必ず歴史があり、なぜそこに立っているのか理由があるはずだ」、と。ロイヤルの舞台はいつも熱気に満ちていて、全員が役になりきって演じている。作品のステップを完璧にこなすことももちろん大事だが、踊りの中でハートを伝えたいというダンサーが多い。
他のバレエ団との違いに改めて気付いたのは、他国のバレエ団の公演を観に行ったときのことだ。鑑賞したのはロイヤルでも定番となっている作品で、実際、多くの振付家により様々なスタイルで上演されている。このときも曲こそ同じだったが、セットも衣装も構成も全く違うもの。そのバレエ団は、個々のダンサーの回転やジャンプのテクニックも素晴らしく、容姿も非常に美しかった。しかしダンサーの感情が最後まで自分には伝わらず、何か物足りなかった。誤解のないようにしたいのだが、その舞台が悪かったわけではない。バレエに求めるものが自分と違うだけで、だからこそ様々なスタイルのバレエ団がある。
同じ芸術を伝えるのにも千差万別。自分は体よりもハートで勝負したい。そんなことを考えているうちに、自分はロイヤル・バレエ・ダンサーなのだと実感した。
世界中にバレエ団はたくさんあるが、今、自分が求めているものがロイヤルバレエにはある。人から「今日のあなたの気持ちが本当に良く伝わった」と言われることが、最大の賞賛だと感じている。どんなに上手に踊れてもそこに気持ちがなかったら、人の記憶には残らないのではないかと思う。「一生忘れない」という声を聞くと、本当に嬉しい。
偉そうに言っているが、そんなに簡単に言葉も使わず、気持ちが相手に伝わるものではない。しかしダンサー一人ひとりの持つ気持ちの積み重ねが、記憶に残る舞台づくりに繋がっていると信じている。
俺もまだまだ修行中の身、技術面でも足りないところが多い。自分の気持ちを全身で表現できるダンサーになれるよう、精進していこうと思う。