様変わりする英国の政治風景―二大政党制は終焉する
5月の欧州議会選で得票率27.49%で24議席を獲得して英国の第1党になった英国独立党(UKIP)の勢いが止まらない。欧州連合(EU)からの離脱と移民規制の強化を唱え、10月から11月にかけて行われた3つの補欠選挙で2議席を獲得した。UKIPが下院に議席を得るのは初めてのことだ。負けた選挙区でも得票率を前回総選挙より36.1%も増やして、当選した労働党候補にあと一歩のところまで肉薄した。
当選したUKIPの2議員は与党・保守党から鞍替えした強硬な欧州懐疑派だ。UKIPに投票しているのは、EUから英国の権限を取り戻さなければならないと思っている欧州懐疑派のほか、英国の伝統的な価値が壊されていると感じる保守層の白人高齢者、移民に仕事を奪われていると不平を漏らす労働者階級、既成政党に失望した人たちだ。こうした人々が漠然と抱く不安や不満を代弁しているのがファラージ党首だ。
「2900万人のルーマニア人とブルガリア人に門戸を開放することは大問題をもたらす」「英国に来て子供を生むのは大歓迎だ。しかし、英国を乗っ取ろうとしているのなら、お断りだ」。TV カメラの前で不敵な笑みを浮かべてタバコの煙をくゆらせる。パブでビールのパイント・グラスを傾ける。時代の流れに置いてけぼりにされた高齢者や労働者たちの心のオリをすくってやるように言葉を操る。これも民主主義とはいえ、移民の一人である筆者の目には、毒を撒き散らす道化師そのものに映る。
スコットランド独立の住民投票で独立反対派に敗北を喫したものの、その勢いを借りて有料党員を2万5000人から8万人以上に増やした地域政党・スコットランド民族党(SNP)とともに、UKIPが来年5月の総選挙で台風の目になるのは間違いない。前回総選挙では、チャーチル首相の戦時連立内閣以来初めてとなる連立政権が保守党と自由民主党によって誕生。多くの人が「ニュー・ポリティックス(新しい政治)」に期待 した。しかし、欧州債務危機の悪化が低成長をもたらし、超金融緩和策が格差を拡大、保守・労働・自由民主の各既成政党への不信感を増幅してしまった。
来年の総選挙で英国政治史上、前代未聞の事態が起きそうだ。大手世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー会長はこんな予想を出している。SNP20~30議席、自由民主党最大28議席、UKIP10議席となり、その他の地域・小政党と合わせると、保守党と労働党を除いた議席は最大で100議席に達する。下院の定数は650だから、残る550議席を保守党と労働党が争う。現在の世論調査では保守党と労働党の支持率が拮抗しており、どちらかが300近い議席を得る確率は低い。このため、保守党と自由民主党、労働党と自由民主党、労働党とSNPが連立を組んだとしてもいずれも過半数の326議席には届かず、3党以上の連立政権が誕生するかもしれないというのだ。
衝撃的な予想だ。英国と言えば二大政党制の本家本元。総選挙は小政党には圧倒的に不利な単純小選挙区をとり、1955年には労働党と保守党で得票率の96%、議席の98%以上を占めた。少数派の意思が反映されずらい勝者総取りのシステムは「強い政府」をつくる。それが、衰えてなお国際社会で影響力を発揮し続ける英国の強みになってきた。日本でも1990年代の政治改革で英国型の小選挙区が取り入れられた。民主党政権が誕生し、本格的な二大政党時代の到来を期待させたが、外交の混迷、東日本大震災時の政権の混乱で民主党の信頼は失墜した。米国でも議会で民主党と共和党が非妥協的な対立を繰り広げ、政治の停滞をもたらしている。二大政党制は今や瀕死の状態と言っていい。
こうした兆候は英国では1960年代、70年代から少しずつ現れていた。2004年のEU拡大で東欧やバルト3国からの出稼ぎ移民が急増し、キャメロン首相は年間の移民の純増数を10万人以下に抑えると宣言したものの、公約はとても実現できそうにない状況だ。EU離脱と移民規制に争点を絞るUKIPが皮肉にも英国の議会政治を、多数決よりコンセンサス(総意)を重視する欧州型に変えようとしている。このままでは、英国伝統の「対面型」議場を半円形の「欧州型」に作り変えなければならない日が来るのもそう遠くないかもしれない。
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