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Thu, 21 November 2024

第125回 法人格のそもそも論と徴税コスト

日英両国経済の難しさ

日英ともに、今後どのようにして国を栄えさせていくのかという点について迷いがある。英国では、ウィンブルドン方式で海外から金融機関を誘致し、ロンドンを国際金融の中心地として場貸しすることで、国全体が潤うという方法を取ってきた。しかしサブプライム問題以降、金融が産業として苦しくなると、英国経済全体も振るわない。国際金融におけるロンドンの地位は大きく下がってはいないが、金融依存の経済発展には疑問が出てきている。スコットランドを始めとする自国の製造業が停滞し、産業振興も外国企業の誘致という形でしか事実上行っていないため、海外からの製造業が、英国内から中東欧にシフトしている状況を変えることもできない。

日本は製造業の競争力がまだあるものの、大企業がアジアを中心に海外投資を積極化する一方で、国内投資は極端に抑制する方針にあり、国内の雇用は減り、賃金も上がらない状態だ。また先端分野以外の製造業は、韓国と中国が完全に日本を追い抜きつつある。先端分野でマザー工場を日本国内に残せるのか、それだけで雇用を維持できるのか、そして環境、観光、介護・健康、教育分野等で内需拡大を図れるのか。いずれにせよ、日英両国経済は構造問題に直面している。

法人格の軽さ

両国では、新産業の育成、需要の開拓が政策論として唱えられることが多いが、現実にこれを担うのは企業なので、今回は企業=法人格について、そもそも論の観点から、構造問題を考えてみたい。まず、両国における法人の現状はどうなっているのか。2008年の統計では、英国の総法人数は約179万社あり、うち86万社が赤字法人である。また納税額が500ポンドに満たない企業が約14万社あるので、合計100万社、6割弱の法人はほとんど税金を納めていない。さらに納税額が500~5000ポンドまでの間の企業が約32万社あるので、約4分の3の企業は、1ポンド=150円として、納税額が75万円にも満たないことになる。この状況は日本も同様である。2007年には法人数は約260万社で、うち税金を収めていない欠損法人は174万社、約67%ある。

7割もの企業が赤字ということがあるだろうか。いや、それでは経済は成り立たない。日英ともに必要経費を多くすることで、所得税減らしがなされているのではないか。そもそも法人は、個人より制度として優遇されている。まずは有限責任制度。次に必要経費の大きな控除である。有限責任制度はそもそも法人が法人たる所以なのでやむを得ないが、必要経費の認定には大きな恣意性がある。

昭和20年代の日本では、欠損法人は全体の2割ほどであった。戦後一貫して欠損法人の割合が高まっており、その多くが所得税対策として利用されている。昔で言えば、豆腐屋や針子、八百屋、駄菓子屋といった個人営業が、株式会社となり、小売業における大企業のチェーン店と化した。英国の統計は見当たらないが、法人数は毎年増えており、日本ほどではなくとも、法人格は節税に利用されている。

世界初の株式会社とされている東インド会社は、勅許会社でもあった。特別な優遇を得る代わりに、納税はもちろん、収益を上げようと株主は優れた人を経営者に選び、経営者は従業員と一体となって付加価値を世の中に還元することを使命とした。だからこそ、コーポレート・ガバナンスも意味があった。ところが節税のための法人では、個人との財産分離などが十分ではなく、ガバナンスも十分働かない。法人格の軽さが、株主や経営者に緊張感や世の中に対する使命感を欠かせ、その結果、赤字企業を増加させ、日英経済の将来を曇らせてはいないだろうか。

徴税コストの高さ

法人が合法的な節税のために使われ、必要経費の認定には大きな恣意性があるとなると、その適切な認定のためには大きな徴税コストがかかる。2009年における英国の税務職員数は約7万9000人、日本は5万5000人である。加えて各会社で、源泉徴収などのために税金担当者を置いている。申告納税が原則となっている米国の税務署員は、2008年で約10万1000人に過ぎない。経済規模を考えると、日英の徴税コストは、大きな社会的なコストになっていないだろうか。

経済の将来を考えるときに、環境、観光、介護・健康、教育分野といった分野での需要開拓を考えることも重要だが、足許の、それもこれまで当然と考えられてきた制度そのものが抱える社会的コストを考えてみることも重要と思う次第である。

(2010年2月17日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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