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Fri, 22 November 2024

第23回 グローバライゼーションの代価

英国への恩恵

ここ2回ほど、グローバライゼーションの長所、短所を考えてみた。今一度お付き合い願いたい。ブラウン蔵相は、最近の演説で再三にわたりグローバライゼーションは英国の利益、と述べている。BBCがオリンピックよりも長い時間を割いて放送していた先日の英連邦スポーツ大会を見ても、英国の世界中に対する影響力の広がりと強さを実感する。

シティにおけるインベストメント・バンカーやメイフェアのヘッジファンド経営者の高給などロンドンの金融関係の繁栄。ひいてはその周辺にある弁護士や会計士、はてはビルのメンテナンス、受付などに広がる雇用。そしてその雇用がもたらす購買力とそれに見合う物価高やポンド高も、いずれもグローバライゼーションが英国にもたらす恩恵と言える。

格差拡大の真因

しかし、庶民の暮らしは少しずつ負担が増えてきている。先月の予算で蔵相が示した国民負担率を見ても(下図表参照)、労働党政権下で負担率は上昇し、今後も高止まりする予定である。現に各種公共料金の値上がりや、信託を利用すれば事実上無税だった相続税の徴収強化などが予算に盛られる一方、公務員の終身年金の継続が批判され、さらには地方自治体の予算は大きくカットされた。何となく好景気の終わりの始まりを感じ始めている人々が多いように感じる。

一歩引いて大きく世界的な流れを考えてみると、こうした動きはどのように位置付けられるであろうか。そもそも出発点は共産主義の崩壊とIT技術の発展だった。東欧や中国で低賃金労働力が大量に生まれ、インド人の数学能力とITリテラシー、英語力を活かすビジネス・チャンスが拡大した。先進国の企業は自国に投資するよりも、途上国に投資するかアウトソースに目を向けた。これはもっと安い給料で働く人が大量に出現したことを意味し、先進国の労働者の失業の増加と賃金の低下を生む。こうして企業はコスト節減に成功したものの、より安い労働力の発見により従業員には還元されない構造が続いている。中国の農村部、ひいてはアフリカから低賃金労働力が生み出される限りこの構造は続くであろう。簡単に言えば、グローバライゼーションは、発展途上国で働く人々からの先進国で働く人に対する「本当に給料に見合う仕事をしていますか?」という深刻な問いかけと言える。

この結果、先進国では企業のある都市部、英国ではロンドンの一部で手に職のある人は栄え、地方や単純労働者は賃金が上昇せずいわば没落することになった。英国政府はこの間財政支出を増やし地方を補助してきたが、ロンドンの急成長により格差は拡大するばかりである。こうしてみると英国の財政の緩やかな悪化、地方の景気悪化、失業率上昇、ドロップアウトした移民やそれを扇動する人によるテロ、一方で英米企業での50歳台でのリタイアとフィランソロピー隆盛、ロンドンのバブリーなレストランなどもこの文脈の上にある。一方で、企業の自国投資不足は過度の金融緩和を生み、不動産バブル、金融市場でヘッジファンドやプライベイト・エクイティ・ファンドを生み出した。

「格差拡大」による財政赤字の拡大、そして何より社会の不安定の拡大、これがグローバリゼーションの当面のマイナス面である。日本では、財政赤字のため一段と状況は深刻と考えられる。

グローバライゼーションの持続性

こうしたグローバライゼーションとそれに伴うコスト拡大はいつまで続くのか? 一旦始まった低賃金労働力を探す資本の運動は簡単には止まらないし、止められないと思う。

かつて米国ではアメリカン・ドリームがあり、底辺からでもトップに上る余地が大きくあったと聞く。英国社会ではどうだろうか? 結局言えそうなことは、庶民は自らの価値を高めることしかなさそうである。競争相手は、世界中の人々になっていくと思う。それ自身は悪いことではない。国は、そうした努力を怠らない人々を援助すること、すなわち教育に力を入れることになろう。ブラウン蔵相の新予算は、大きな目玉はないと批評する向きもあるが、生徒1人あたりの教育費を1.6倍にするとしている。時間がかかる問題だが、急げば回れということで、正鵠を射ていると思う。

ただし、強運ブレア首相の後で、確実に英国の経済状況はピークを過ぎつつあるように思われ、ブラウン氏は難しい経済運営をすることになるであろう。ブラウン氏による憲法や国家など英国らしからぬ社会団結の強調は、そうした状況の裏返しと見るがどうだろうか。

(4月3日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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