東欧の経済問題
昨年秋から新聞で東欧各国の経済危機が報じられている。中でもラトビアとハンガリーが、アイスランドやウクライナに次いで国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けた。その因果は、まず世界的な経済状況悪化で東欧諸国の主な輸出先である欧州やロシアへの輸出が減り、経常収支が悪化する。そうなると経済状態が悪化するために外国(主に欧州)資本が引き揚げを始め、ユーロに加盟していない自国通貨が大幅に下落する。そして通貨の下落が一段と資本の引き揚げを加速させる。そうした信用のない国に好んで投資や融資する投資家や金融機関はいない。
通貨が下落すると外貨の交換ができないため、対外債務の支払いに差し支えが出るようになり、外貨準備の懐が小さい国家は、外貨に対する国内需要に応えられない。このため、IMFや世界銀行、欧州連合(EU)などが緊急融資することで国家のデフォルト(債務不履行)を避け得る。ただし、IMFなども無料で外貨を貸してくれるわけではない。同機関は今回の経済危機で、通貨の切り下げ(実態に合わせて対ドルで自国通貨の価値を下げること)か、ユーロへの加盟か、財政支出削減による当面の景気悪化受け入れ、のいずれかを借入国に迫ったと言われている。
まずユーロへの加盟は経済状況が他のユーロ加盟国の水準まで整わないとして、EU側が蹴ったようだ。また通貨切り下げは輸出には良いが、輸入物価が上昇し、国民負担がいずれ大幅に増加する。そこで、ここは財政支出の削減で国民の不人気を甘受するということになった。その結果、銀行の不良債権は第2巡目の増加に入る。このため追加投資はもちろんされないし、資本の引き揚げも第2巡目に入りつつある。
EUの本丸、二の丸
こうした中でEUは、ラトビアやハンガリーなど同加盟国ではあるがユーロ未使用国へIMFや世界銀行などのマネーが入ることはやむをえないとしても、スロバキア、スペイン、ポルトガルなどユーロ使用国にIMF資金が入ることはEUの存在意義にもかかわるとして、これを何とかEU国の支援で解決しようとしている。これらの国では不動産のバブルが破裂し、投資が一気に引き揚げられつつあり、銀行の不良債権は急増している。このため消費が冷え込んでいる。
こうした状況では、労働者が景気の良い国へ移動して景気を平均化させるというのが、最適通貨圏としてのユーロ・ゾーンの経済的な存立理由だったはずである。ところが目下、労働者のEU域内での移住は足踏みしている。もちろん、現時点では景気の悪化はどこの国でも同じように起こっているので、労働者の移住の意味が小さいということもあろう。しかしながら最大の理由は、英国はじめ大国がこの5年ほどの間に移民制限を強化したことが効いていると筆者は考える。このため最適な通貨圏としてのEUの存立基盤自体が崩れている可能性がある。労働者が自由に移住しない場合において、他地域より景気悪化が著しい地域を助ける方法は、財政による所得の移転しかない。
ところが英国やフランスは、自国の銀行救済などで財政的な余裕がない。そこでドイツの出方が鍵になるが、メルケル首相は財政出動に積極的とは言えない。結局、EUはその土台を守れるのかどうかの正念場をこれから迎える。簡単に言えばEUは、経済が上り調子の時は拡大を続けたが、経済が下り坂のときは、加盟各国の民主主義が他国を助けるほど寛容ではないということで、その枠組み自体の意義が問われている。
4月のNATO首脳会議
そこへ4月第1週のチェコでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が来る。EU首脳とオバマ米大統領が会し、アフガニスタンの治安悪化やカルザイ大統領後の情勢を話し合うことに注目が集まるが、フランスのNATO軍復帰に注目したい。南欧軍の司令長官をフランス人とすることを条件にしていると報道されているが、ユーロ使用国に対し財政貢献できないフランスが、米国の経済力が弱った今、米国の影響力が強いIMFや世銀の進出を抑止しつつ、EUの主導権を政治面から握ろうとしていると見るのは考えすぎだろうか。そうなると英米が目論むアフガニスタンへのEU関与は、そう容易ではない。翻って、アジア取りわけ日本への貢献要請は必至だ。4月は経済変動を所与としつつパワー・ポリティクスが展開する。日本は目先の経済問題ばかりに目をとられていると、たっぷりお金を出すことになりかねない。
(2009年3月18日脱稿)
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