ドイツ国債の一人勝ち
サブプライム問題以降、ドル安ユーロ高が続いている。この問題の欧州金融機関への影響がいまだ顕在化していないとの意見もあるが、もともとは米国の住宅ローンと証券化商品の信用格付が問題であって、欧州への影響は二次的であることを示している、との見方が有力だ。一方でドイツを中心として欧州経済は比較的好調で、これがユーロ高の主因となっている。
金融市場では、プレイヤーである金融機関の信用力が十分かどうかについて疑心暗鬼が広がり、昨年秋から全体の取引量が減る一方で安全な商品に取引が集中した。安全な商品とは各国債であり、中でもブンズ=ドイツ国債は一人勝ちとなった。その他の欧州主要国の国債の流通利回りとの差が開き、それほど社債市場の発達していない欧州ではドイツ国債こそが本当の国債で、その他の国の国債がスプレッド商品*1 という位置づけが西ドイツ時代以来20年ぶりにはっきり出てきた。イタリア国債、スペイン国債に至ってはドイツ国債との利回り格差が60bp*2 から一時は100bp(=1%)近くまで開いた。G7の中で財政黒字国はドイツとカナダだけで、米国経済悪化の影響を比較的受けず、経済力が安定しているのはドイツしかない。
ドイツ経済は、①約20年前の東ドイツ併合に伴う東側への補助、②強い労働組合や規制が原因で解雇や賃下げを弾力的に行うことが出来ないこと、が重石となって英米に遅れたとされてきた。それでも世界第3位の経済力を維持してきたということは、潜在力は大きいということである。②の問題は、制度自体にはあまり大きな変化はないのだが、東欧やトルコからの移民が、制度外の労働者として実質賃下げに大きな貢献を果たした。移民排斥を極右が声高に言うということは、将来はともかく現時点ではそうした考え方が一般にはいまだ広がってはいないということを意味している。
さらに金融市場では、ドイツはいよいよ①を乗り切りつつあるのではないかという見方が有力だ。もちろん東側地域での失業率は西側に比べて高いが、より東の東欧、ロシアの経済発展を受けて、ドイツ製品の消費市場は大きく広がっている。よってこれまでの東側への投資、特にインフラ工事や教育が開花する材料や場所が拡大したことの意味は大きいとの論者が多いように思う。
ドイツの外交攻勢
こうした状況を受けて、メルケル首相の外交姿勢は最近大変に強気だ。ダボス会議での「環境技術はドイツが担う」という、日本をしのぐかのような自信。就任後3回もイスラエルを訪問し、ドイツは米国に次ぐイスラエルの友好国と言わせることにより、日本と異なり第二次世界大戦に関する政治問題を解決すると同時に、ITベンチャーの発展著しい同国の貿易主要相手国となる一石二鳥の動き。そして同時にイランとも友好関係を築き、中東和平の交渉において、米国がEUを招かざるを得ない状況を作り上げた戦略。いずれも経済力をバックに発言力を強化している。
また実権はドイツが握りつつも、表面はあくまでEUとしてロシアの人権問題や民族問題にリベラルな顔を作っている。そうすることでロシアとの経済関係を強化し、さらには東欧市場をロシアと席巻しようという戦略だと言われている。
ヨーロッパの都
ロシア、東欧との関係で、都市としてのベルリンの発展が著しい。欧州帝国の都は、金融や人材はロンドンに、芸術やグルメはパリに決したように思うが、アバンギャルドはベルリンではないかと感じる。廃墟に近かったポツダム広場が、ソニー・センターを中心に高層ビル街に生まれ変わりつつある。お恥ずかしいことに最近まで知らなかったのだが、テクノのメッカはベルリンで、日本からの多数のバンドが年に1回この地に集まる。一方で、第三帝国と東ドイツ崩壊という2度の「敗戦」を経て、いまだに「戦後」を感じさせ、都市と人間という観点からはまだ解答を出せていないベルリンは今後要注目だ。
万が一かもしれないが、ロシア帝国と欧州帝国が密接な関係を結ぶとしたら、その時はベルリンが中心になる。またドイツの力が強くなると、英国は歴史的にみて必ずフランスと接近する。パッとしないブラウン首相とブレア崇拝者のサルコジ大統領による昨月のロンドンでの何か可笑味のある2ショットは、暗示的だと思った。
*1 最も安全な国債との安全性の程度の差で値段が決まる商品のこと
*2 利回りを示す尺度。1bpは0.01%
(2008年4月2日脱稿)
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