今年最大の経済問題
本原稿が2008年第1回目の原稿となる。本年も宜しくお願い致します。
年頭に当たり、今年の世界経済、日本経済を展望したい。一言で言えば、世界も日本も政治が最大の経済問題という年になりそうだ。主要政治日程はもちろん米国とEUの大統領選出、日本の衆議院解散、北京オリンピックである。これらに昨年来の経済情勢がどのように絡んでいくのか。
サブプライム問題は本欄での予想通りというかそれよりやや早いスピードで、不良債権問題から証券化(倒産隔離の法的安定性)や銀行のコングロマリット化の是非を含む金融制度問題、さらに損失負担や為替調整をめぐる政治問題へと展開しつつある。そこまで政治化するのは、世界経済の牽引役であり、また世界経済のバブルを招いていた米国消費者の心理が冷めつつあるからだ。このため中国の米国向け輸出の減速が顕著になりつつあり、オリンピック後の中国経済は中国人の消費動向次第という面が強まっている。一方で原油、小麦をはじめ一次産品の価格の高止まり、高騰が続いており、インフレ懸念は非常に強くなっている。中国人の消費の伸びが鈍化すれば、景気悪化と物価上昇がコンビを組むスタグフレーションになろう。
スタグフレーションは今年の経済にとってのキーワードであり、1970年代に英国が苦しんだ経済状態でもある。その克服は、マーガレット・サッチャー政権による小さな政府、ある意味では福祉の最小化と民営化、自由化の推進と北海油田の余得なくしてはできなかった。しかし今度も同じ解決策で良いとは限らない。70年代には見られなかった規模でグローバリゼーションが起きている中での事態だからだ。そこではどういった解決が図られていくのだろうか。
政治の保守化は必至
大きな改革の前には前兆が必ずある。英国もいきなりサッチャーが登場した訳ではない。ハロルド・ウィルソンやジェームズ・キャラハンなどの前任首相たちが、小手先の改革を行ってもことごとく成果を上げ得なかったことが伏線にあった。
グローバリゼーションの中で行われていた自由競争はこれまで景気拡大局面で展開されたが、今や世界経済は非拡大局面に入っているのでまず国家は守りの姿勢に入る。米国アイオワで勝利した同国大統領候補のバラック・オバマ氏でも対立候補のヒラリー・クリントン氏でもそうだし、ニコラ・サルコジ仏大統領もアンゲラ・メルケル独首相にも思い切った民営化、自由化は難しいと思う。日本の福田氏にも結局新味はない。仮にブレア氏がEU大統領に就任した場合はどうだろうか。中東問題などで進捗はあるかもしれないが、基本的にはロシアとの勢力均衡問題と地球温暖化問題にその力の大半を費やすのではないかと予想する。結局GATTなどといった自由貿易のための枠組み内では、国際間での簡単な取り決めを締結することはできても、より本質的で難しい問題は先送りされていくことになるだろう。そして今まで自由であり、グローバリゼーションを進めてきた金融については、資本の自由な移動、すなわち為替の自由取引を国家が抑制する時が転換点になると思われる。その時、新しい米政権の財務長官がキーパーソンとなる。
2月の東京G7ではまだ大きな変化は起こらないであろう。日本の当局のイニシアチブは今やまったく弱すぎて、米中欧の枠組みからは相談相手にならないところまできた。パキスタンでのべナジル・ブット元首相の暗殺、ケニアの混乱は、第三世界の中で持てぬ国に横たうイスラム原理主義の問題や帝国主義の復活に抵抗しつつ民族問題を超えていこうとしている動きの中での混乱と思うが、こういう問題に対して日本は発言権を持っていない。少数言語を話す外交官の数が問題外に少ない。それでも大きな変換点までに日本は一体何をすべきか、またできるのか。
スタグフレーション下の備え
スタグフレーションとは景気悪化とインフレである。幸い日本の景気はようやくボトムアウトしたところなので、これ以上悪くなってもあまり大きな変化ではない。
問題はインフレだ。第一に物価の連続上昇に備えた制度、会計、賃金、資産評価、年金などの対応が急がれるのだが、まだ世界的な枠組みが十分整っていない。物価が上がると価格改定をしない場合に企業や家計は含み益を持つことになるが、それが利益と見なされるのか、そうであればその分課税できるのか、または労働者に分配すべきかなどといった問題は昔から検討されているが、この議論が復活する。
第二に、コスト・プッシュ・インフレの原因であるエネルギー価格を抑制するために、代替エネルギー開発と省エネ技術が課題となる。代替エネルギーについては、最近建設省OBが提唱したように、高低差を利用した水車による水力発電などアイデアを出す余地があるのではないか。またJR東海による2025年に施行を予定している東京-名古屋間のリニア開業計画にも注目したい。大量輸送で航空機に比べエネルギー節約になるとされているからだ。
第三に、そうした事項の全てを通じて一番重要なことは、情報の提供と整理のツールを提供する主体をどのように決めるかのメタ・ルールを確立していくことではないか。考える土台を提供することこそ公的部門が真っ先に取り組むべき課題となるであろう。
(2008年1月4日脱稿)
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