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Sun, 24 November 2024

第60回 サブプライム問題再論

サブプライム問題とは

この問題は今年5月初旬に掲載した第51回で論じた。ポイントは以下の通り。

 

(1)サブプライム・ローンとは、収入や担保が十分ではないが、購入予定の不動産価格の値上がりを見越して、米国で住宅ローン専門金融機関などが貸し込んだローンのこと。
(2)米銀は80年代後半からのラテン・アメリカ諸国や国内住宅ローンでの貸出焦げ付きに懲り、ローンを実施後に貸出を直ちにペーパー会社に譲渡し、その会社の株や社債を住宅ローン専門会社や投資家に買わせるようになった。これにより手数料を稼ぐ一方、貸倒れリスクを買手に移転し、自らはリスクを負わないビジネス・モデル(オフバランス=証券化による倒産隔離)を確立。
(3)サブプライム・ローンはリスクが高く焦げ付きやすい。住宅バブルがはじけると、倒産隔離が法的に確認され買手の投資家や年金が損失を被るのか、それとも法的に無効になり銀行が損を被り、公的資金=税金でカバーするのか。米国の司法、政治が問題を突きつけられることは必至。

その後夏にかけて、米国でファンドの損失が表面化、野村証券が損失を公表したほか、フランスのBNPパリバが傘下にあるファンドの資産凍結を発表。8月入り後の市場の動揺に対してECB(欧州中銀)やFRB(米国連邦準備制度)が市場に資金を供給して動揺を抑え、現在は小康状態となっていることはご存知の通りである。

これからの展開

今回は、このサブプライム問題を今後予想される展開から最終的な着地点までの見通しという観点から再論する。結論を先に言えば、この問題を巡っては「誰が損を被るのか」で今後必ず政治を含めたゴタゴタ、悲喜劇が発生するだろう。第1幕は中央銀行が主役だ。損失処理は民間が被れば倒産問題になるし、政府が被るなら財政問題でいずれも厄介な調整が必要になる。このため、まずは流動性の問題と捉えて市場は問題の先送りを狙う。8月22日付の「ファイナンシャル・タイムズ」紙(FT)の1面には、米国上院のドッド銀行委員長とポールソン財務長官がバーナンキFRB議長と並んで会見する写真が載っている。明らかに政治による中央銀行へのプレッシャーだし、それを載せるFTにも作為が感じられる(どの国でも経済紙は政治に弱い)。世界の中央銀行が協調すれば場の安定は回復するが、真に損失のある場合、先送りは長続きしない。

また今をときめくバークレイズ証券のダイアモンドCEOは24日のFTで、秋頃には固定利回り商品とリスクある商品への投資がバランスする形で市場は回復すると強気の姿勢を示している。もちろんバークレイズこそがリスクある商品での節税を仕組み、その仲介手数料とファイナンスで急成長し、オランダのABNアムロまで買収しようという張本人なのだから、希望的観測としても当然だろう。

来年にかけて第2幕が来る。今回新たに表面化したのは、オフバランス=証券化が何層にもなされていることだ。日本の不良債権処理が良い例なのだが、あまりに経済的損失額が大きいとオフバランス=証券化の法的な枠組み自体が否定されるリスクがある。矢面に立つのは証券化の法的枠組みを作った弁護士、会計士だし、それを売り込んだ投資銀行だ。FTにおいてダイアモンド氏は「問題はサブプライムであって証券化の枠組みじゃない」と予防線を張っている。これに先立ち、非効率なドイツの州立銀行がサブプライム投資で被った損失を、州政府、政府、民間銀行でカバーしようという奉加帳が回っている。米国内では政治的解決があり得るが、国際的な損失分担は法的ルールでやるしかないからだ。この事実を受け入れて、結局ドイツは日本のような公的負担による解決を取るという。しかし、米国人投資家ならそう簡単には諦めないのではないか。

為替調整が来るのか

そして問題は第3幕で、ここをどう読むかが難しい。実はいくらサブプライムの損失が大きくても、損失分担をする政治過程が大変でも大した問題ではない。サブプライム問題が米国人の消費を冷やし、中国景気に影響を与え、米国債が売れなくなって米国が財政赤字を減らす時こそが一大事なのだ。なぜならば米国の金利は急低下し、ドル安になるからである。ユーロ高、円高、人民元高、ドル安。この時に貯蓄国である日中が米国債を買うことを止めればドルは暴落する。学界やエコノミストは世界的なSaving Glut(貯蓄超過)論が問題の本質だと言っている。これを避けるための為替調整は、いわばプラザ合意の再現というのが欧米当局の明確な目論見だ。この過程で日中の景気悪化は必至なのだが、そのシナリオを上回る対案があるのか。日中金融当局の正念場が来る。

(07年8月26日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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