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Sat, 23 November 2024

第4回 米国の光と影(1)

米国で気になる点

これまで3回で日中、英国、EUについて取りあげてきた。次は米国を取り上げたい。唯一の経済、軍事大国それゆえに政治大国である米国の問題を突き詰めて考えていくと、結局世界の問題を考えることになり、ひいては祖国日本のことを考えることになる。パクスアメリカーナの問題はあまりにも大きいのでテーマを次の3回に分けて書く。

初回は米国経済、政治の現状認識とリスク、中でもブッシュ政権の特異性について。

2回目は米国民主主義の変貌。経済政治リスクが具体化したときに機能するのか、インターネットなど技術進歩の影響などについて。最後に米国とは似て非なる英国流の可能性を取り上げる。

米国経済の現状

米国経済は現在も力強い成長を続けていると専門家の間では見られている(経済というものは、真実は後からしかわからないことも多く、みんなが「まだ」問題ないと思っているときには、「もう」すでに問題は起こってしまっていることも多いことに注意!これを株の世界では、「まだはもうなり」といっている)。牽引車は、これまでのイラクなどの戦争のための財政支出とここ数年の米国人の消費(買物)意欲、これを受けた住宅、ビル建設ラッシュである(グラフ参照)。シティに勤めている英国人エコノミストは、ここ3年ほどいつも予想を裏切られているのは米国人のあまりにも我慢強い消費意欲だ、とジョークを言っていた。

世界景気の好循環は、達観すれば以下のメカニズムで成立している。①米国人が消費する、中国などアジア諸国が安い品物を輸出する(中国の米国向け輸出の2割は家具など木製品であり、米国内での住宅投資の強さが窺われる)②日本がそうした品物を作る機械や鉄を中国に輸出する③日本や中国は機械を動かす燃料となる原油や原材料を中東、豪、ブラジルなどの南米から輸入する④元に戻って米国の借金は日本や中国などが米国債を買うことでファイナンスする、という形になっている。

一方、第2回で述べた英国同様またはそれ以上に、米国内部では知的労働者の賃金が急上昇、単純労働に不法も含めて移民が大量に流入し貧富の差が拡大。自由主義的なブッシュ政権は、戦争はするが社会保障など所得再配分には熱心ではなく(最近も年金を民営移管する方向で、財政赤字拡大是正に乗り出している)、社会の不平等は拡大している。

米国経済のリスク

こうした世界経済循環と米国内不平等拡大がいつまで続くのか。現在はマグマが溜まっている状態だと思う。バイオテクノロジーの特許件数をみると米国が日欧と比べてダントツに多い。IT革命も米国発だった。こうした米国の強さが続く限り、経済のパイは大きくなるので、マグマは深く溜まるものの、噴出は抑えられる。しかし、いずれは環の弱いところから噴出し、社会の不平等がそれを増幅する。

噴出口となるリスクがあるのは、まず住宅バブル崩壊による個人消費の停滞である。これは日本の例をみれば明らかであろう。住宅や土地の価格が永久に上がり続けるというのはあり得ないことである。次に何らかの企業や金融機関の不正や損失発覚による、金融市場の混乱に伴うリスクプレミアム急拡大と長期金利上昇である。金融の世界では、不安があれば、金を貸すのに通常より高い金利を要求する(プレミアムという)。高金利は住宅価格を下げ、また経済取引そのものに抑制効果を持つ。しかし、最大の不安の種は、ブッシュ政権ではないか。

米国政治のリスク——ブッシュ政権の特異性

金融の世界では、低い確率(例えば1%程度)ながら万が一発生すればダメージが大きい損失をストレスといい、これに備えるためにシミュレーションを行い(ストレステスト)、これが現実に起こった場合への対応を考えておくというのが常識化しつつある。ブッシュ政権が北朝鮮やイランを攻撃する、ちょっと現実的ではないかもしれないが、ストレスとしては認識しておく必要があるという見方もあながち否定できない。

ブッシュ政権は、9/11を奇貨として、米国を攻撃する可能性がある国や組織に対する予防戦争を、国連や国際世論と関係なく、自ら正当化している点で、これまでの政権と性格を大いに異にしている。イラクでは、フセインは大量破壊兵器の存在を否定していたし、また実際事後にもそうした兵器が発見されなかったにもかかわらず、米国は先制攻撃を行なった。そうであれば、大量破壊兵器である核兵器を持っている、または平和利用にせよ核を開発していると公言してはばからない北朝鮮に対する先制攻撃は、予防戦争の論理的帰結である。これに対する反論は2つある。ひとつは、たとえ米国でも、本当に核兵器を持っている国は危なくて攻撃できないというもの。しかし、そうだとすると、開発前の段階での粉砕が逆に重要になる。その意味で北朝鮮の核実験間近という報道が本当なら現状には危機感を持たざるを得ない。今ひとつの反論は、中国の政治経済力が、米国の北朝鮮への介入を抑止する力になるのではないかという意見(米国も中国とことを構えたくはない)。しかし将来はともかく現段階では、中国はまだ国力で米国にかなわないし、民族が異なることから、最後は北朝鮮を捨石にするのではないか。

一方で、イランシーア派は、レバノンの原理主義組織でテロを行なうといわれているヒズボラを支えるなどフセインなき後、現在のイスラエルにとって最大の脅威である。政府関係機関債券を保証してまでイスラエルを唯一支える超大国アメリカにとって、イランは北朝鮮以上に大きな問題である。

国連や国際世論を無視する米国の単独行動主義(京都議定書からの脱退もその例)により、米国を嫌う世界の人々は、相当数に上っていると思われる。こうした状況に聞く耳を持たないブッシュ政権は、世界の平和とそれを前提とする経済活動や貿易にとり今や最大のリスクとなっていると思う。

以上、米国政治経済の抱えるリスクを要約すると、①消費、住宅バブルの崩壊リスク(10年前の日本に類似)と金融からの混乱リスク、そして何より②ブッシュ政権そのものが世界から遊離しているため起こる戦争リスク、である。これを前提に次回はそうした国家を作り上げている土台である米国民主主義が、特にブッシュ政権をチェックする機能を果たし得ているのか、インターネットなどコミュニケーション技術の飛躍的な進歩の下での民主主義の変貌を考えてみたい。

(2007年6月13日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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