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Wed, 24 April 2024

第1回 経済で読む中国の反日デモ

中国の反日運動団体が、尖閣諸島や日本の教科書記述問題を理由に、インターネットやモバイルで反日運動を呼びかけている。4月16日には上海で大規模デモがあり、日本総領事館や商店に投石。日中外相首脳会談でも、謝罪と賠償を求める日本政府と日本の歴史認識こそ問題とする中国政府のミゾがうまらず、日本が国連安保理の常任理事国入りを目指す戦後60年の今年、抗日戦争記念日などを中心に今後も混乱が続く恐れがある。

この出来事は、日本人に対して「経済一流政治二流の戦後、更にいえば明治以来の脱亜入欧を今一度振り返れ、今後世界とどう付き合い、ひいてはどう生きていくのか、をもっと真剣に考えよ」という神の啓示だと思う。こうしたことは、今後もっと増えるだろう。「もっと真剣に」と言ったのは、経済面において日本人は、既にバブル崩壊以降、生活水準を如何に保つかについて悩んでいるからで、その問いに対して今般、政治面でも答えを出せとはっきり言われたということではないか。

政治、経済大国中国

答えを考える前提として、両国の置かれている政治経済状況を確認しておきたい。言うまでもなく、政治的には中国は既に大国である。経済面でも、早ければ、目の子で計算して、後7年程で日本は抜かれる(グラフ参照)。中国の国内総生産(名目GDP)は、現在は日本の3分の1程度ながら(2004年:日本約4・8兆ドル〈約504兆円〉、中国約1・6兆ドル)、前年対比の成長率では、日本が中国経済拡大のおかげでやっと2%強、中国は13・4%。この成長率が両国で続き、金融市場でうわさされる人民元の対ドル2割切上げがあれば、2012年にはドルベース名目GDPは逆転する。4割切上げなら2010年、切上げなしでも(考えにくいが)2015年。

さらに現実はそれまで待ってくれないかも知れない。日本いや世界経済は今や中国抜きではやっていけない。今日本の最大の輸出入相手は中国(含む香港)、中国の最大の輸出相手は米国である。そして、日中は米国債を買って、ドルを支えている。日本の景気回復も中国への輸出増加のおかげ、日本の観光地も中国人旅行客で生き残りという先も多い。中国のサミット加盟は時間の問題である。

一方、日本経済は小泉構造改革のためここ10年位は高成長は期待できない(サッチャー政権前期と同じ)。このため最近の日本には悲観的な人が多い。ただ、それでも中国の人口は、日本の10倍いるため、GDPが並んでも国民一人あたりは日本人の10分の1程度しかリッチでない(もちろん中国人の中には、すごい金持ちも増えているが)。ここが問題である。国としては日本と同程度かそれ以上の金持国で、かつ政治大国ながら、国民1人1人は日本人より貧しく、過去の日本侵略に恨みをもって、欧米にあこがれている隣人。こういう人とどう付き合うか。

日本人の生き方、世界との付き合い方

食料とエネルギーを自給できない日本が(それ自体を考え直す手もあるが)、中国と商売しない、仲良くしないという選択肢はない。ただ、バイでは勝ち目はないし、心理的な問題は簡単には解決しない。そうであれば、グループ交際しかない。中国の脅威に対応して作られたASEANやインドとも協力して、戦争をしないという一点で結集しているEUのようなAUができるかどうか。その触媒となるべき、今の日本人の旗印は、何事にも誠実、勤勉(これは日本人女性がイギリス人男性にもてている最大要因では?)で、戦争を放棄した「Japan as it is」しかないのではないかと思う。僕は、アメリカに対するイギリスに、日本は対中でなれるのかどうか、イギリス人の賢さとずるさを思うことがある。

中国の政治経済リスクが表に出る前に日本人は答えを用意しておく必要がある。一つ目の危機は、過熱する経済が一回こけそうな北京オリンピックや上海万博前後(5年以内)、今一つは、北朝鮮か台湾がゴタゴタする中国共産党の試練のとき(10年以内か)。

この問題は、究極的には政府の問題ではなく、日本人一人一人の問題だと思う。BBCニュースで見た反日デモ行進の若者の顔は、イラクの反米デモとちがい、本当に怒っているのか? とつっこみたくなるような真剣味に欠けるものだった。デモには、インターネットの呼びかけで、物見遊山で参加した人も多かったのではないか。ヒトラーなくして大衆動員できるインターネットの怖さを痛感したが、インターネットは使いようだ。中国政府がインターネットの情報統制をしているなら、普通の日本人が中国の普通の人々と対話しようではないか。ただ、その上で、日中両国で、大人の対応ができる周恩来のような政治家が是非とも出て欲しい。

(2005年5月12日)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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