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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

モー・ファラー選手ロンドン五輪で2個の金メダル
陸上のモハメド・ファラ選手とは

ロンドン五輪では英国勢の活躍が国中を沸かせたが、中でも陸上男子のモハメド・ファラ選手(29)は、5000メートルと1万メートルでともに金メダルを獲得し、大きな注目を集めた。今回は、五輪をきっかけに新たに英国民のヒーロー的存在となった同選手のこれまでの歩みなどについて追う。

モハメド・ファラ選手プロフィール

氏名:Mohammed Farah
ニックネーム:モー(Mo)
国籍:英国
生年月日:1983年3月23日
出生地:ソマリア、モガディシュ
現居住地:米オレゴン州ポートランド市
身長:175センチ
体重:65キロ
スポンサー:ナイキ、ルコゼード(Lucozade)、ブーパ(BUPA)
ウェブサイト:www.mofarah.com(選手としての公式ウェブサイト)
www.mofarahfoundation.org.uk(自身が設置したチャリティー団体「モー・ファラ財団(Mo Farah Foundation)」のウェブサイト)

モ・ファラ選手
今年5月にロンドン市内中心部で開催された10キロのロードレースにて、
1位でゴールするファラ選手

モハメド・ファラ選手
表彰台に立つファラ選手(写真右)。
同左はマラソン女子のマーラ・ヤマウチ選手

モハメド・ファラ選手略歴

1983年 ソマリアで生まれる。
  同国の内戦を逃れ、隣国ジブチ共和国に渡った後、8歳で渡英。ロンドン西部ハンズロー(Hounslow)区の叔父・叔母宅に住み始める。同区内のオリエル小学校(Oriel Junior School)に入学。
同じくハンズロー区内の公立中学校、フェルサム・コミュニティー・カレッジ(Feltham Community College)に入学。体育教師に才能を見出され、陸上の練習を始める。
同校卒業後、同区内の中学校兼シックス・フォームの学校であるイスルワース・アンド・シオン校(Isleworth and Syon School)に入学。
2001年 欧州陸上ジュニア選手権の5000メートルで優勝。
2005年 オーストラリア人の陸上選手クレイグ・モットラム及びケニア人の陸上選手のグループと合宿生活を行う。同居した選手たちのストイックなライフスタイルを目の当たりにし、より厳しいトレーニングを行う必要性を痛感。
2006年 欧州陸上競技選手権の5000メートルで銀メダル。
2007年 日本・大阪で開催された世界陸上競技選手権の5000メートルで6位。
2008年 北京五輪の5000メートルで予選落ち。
2009年 1月のAVIVA国際陸上競技大会、2月のAVIVA英国室内陸上競技大会で、3000メートルの英国記録を続けて更新。
8月、世界陸上競技選手権の5000メートルで7位(同選手権における欧州選手の過去最高記録)。
2010年 7月、欧州陸上競技選手権の5000メートルと1万メートルの両方で金メダル。同大会史上6人目の快挙。
8月、IAAFダイヤモンド・リーグで5000メートルの英国新記録を樹立(12分57秒94)。またこの年、長年の恋人であったタニア・ネルさんと結婚。
2011年 2月、トレーニングのため、米オレゴン州ポートランド市に引っ越すことを発表。同月、AVIVAバーミンガム室内陸上競技大会で5000メートルの室内欧州新記録を樹立(13分10秒60)。3月、欧州室内陸上競技選手権の3000メートルで金メダル。
3月、ニューヨーク・シティー・ハーフマラソンで英国新記録を樹立(60分23秒)。
6月、IAAFダイヤモンド・リーグで1万メートルの欧州新記録を樹立(26分46秒57)。
7月、IAAFダイヤモンド・リーグで5000メートルの英国新記録を樹立(12分53秒11)。 8・9月、世界陸上競技選手権の5000メートルで金、1万メートルで銀メダル。
2012年 6月、欧州陸上競技選手権の5000メートルで金メダル(5000メートルで2大会連続の金メダル獲得は同大会史上初)。
8月、ロンドン五輪の5000メートルと1万メートルの両方で金メダル。
同月、IAAFダイヤモンド・リーグの2マイルで優勝。
同月末、妻タニアさんに双子の娘が誕生。

内戦のソマリアから8歳で渡英

モハメド・ファラ選手は、1983年、東アフリカのソマリアで生まれた。同国では80年代から、社会主義を標榜するバレ独裁政権に反発する反政府勢力が台頭し、1991年の同政権崩壊後、内戦状態に突入した。こうした政情不安による混乱を逃れるため、モハメド少年は、わずか8歳のときに、英国のロンドン西部に移住した。最初は英語をほとんど話せなかったため、言葉の壁で苦労したが、中学校で体育教師に陸上の才能を見出され、ランナーへの道を歩み始めた。当時、彼はサッカーに夢中で、陸上には興味がなかったが、その才能を確信していた教師が、「陸上クラブに入れば、週2回、ジムでサッカーの練習をさせてあげる」という条件を出したことで、陸上に挑戦することになった。

マラソンのラドクリフ選手の支援も

こうして始めた陸上で、ファラ選手は学校時代から、クロスカントリーの大会で優勝するなどして活躍。学校卒業後は、国営宝くじの収益金からの補助金を受けられるようになるまで、スポーツ用品店やファストフード店で働きながら陸上を続けていた時期もあった。また、10代後半のころ、夜間のトレーニングに通うのに車の免許が必要だったファラ選手のため、女子マラソンのポーラ・ラドクリフ選手が、彼の運転教習費を出してくれたこともあったという。

2006年には欧州陸上競技選手権の5000メートルで銀メダルを獲得するなど、シニア・レベルでも頭角を現し始めたファラ選手であったが、2008年の北京五輪では、5000メートルで予選落ちする屈辱を味わう。翌2009年のインタビューで、同選手はこのことを、「つらい経験」であったと語っていた。しかし、その翌々年の2010年の欧州陸上競技選手権では、5000メートルと1万メートルの両方で金メダルを獲得し、成長ぶりを見せつけた。更に2011年2月には、米国人の元マラソン選手、アルベルト・サラザール氏の指導を受けるため、妻と娘とともに米オレゴン州ポートランド市に引っ越すことを発表。ファラ選手は、この決断について、「自分にとっては賭けだったが、陸上選手として向上するため必要だった」と語っており、今回のロンドン五輪での勝利も、サラザール氏の下でトレーニングしたお陰であると述べている。

成功の秘訣は「猛練習と努力」

ロンドン五輪閉幕の約2週間後には、双子の娘が生まれ、うれしいニュースが続いているファラ選手だが、今後については、いずれトラック競技からマラソンに移行したいと語っている。また、妻タニアさんとともに昨年設置した、ソマリアの飢餓と干ばつ救済を目的としたチャリティー団体の活動も引き続き行っていく。

片言の英語さえ話せずにソマリアから渡英した少年は、20年あまりの間で、「英国史上最高のランナー(ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会のコー会長)」と言われるまでに成長した。同選手は、ロンドン五輪で2つ目の金メダルを獲得した直後のインタビューで、成功できた理由を聞かれ、「猛練習と努力。努力、努力の長い道のりだった」と語っていた。今後もファラ選手がこれまで以上の努力を積み重ね、私たちに更なる感動をもたらしてくれることは間違いなさそうである。

Somalia

東アフリカの国、ソマリア。首都モガディシュ。1960年に英国とイタリアから独立。1991年のバレ政権崩壊後、武装勢力間の内戦状態に突入。現在も全土を実行支配する政府は存在しない。2004年に設置された暫定連邦「政府」(TFG)は、2012年8月20日で統治が終了したが、新大統領選の実施は遅れている。ファラ選手の実家は、1991年に「ソマリランド」と自称して独立宣言したソマリア北部の出身である。同選手は、2010年の欧州陸上競技選手権の1万メートルで金メダルを獲得した際、ソマリランドの旗を掲げて勝利を祝った。

(猫山はるこ)

 
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