革命から内戦状態に突中
欧米・露中間の緊張高まるシリア情勢
内戦状態にあるシリアに対する国連の停戦調停案が失敗したとみられる中、人道的理由から軍事介入に踏み込むべきだとの見方を示す欧米と、それを阻止したい露中間で緊張が高まっている。対欧米姿勢を強化する露中両国は、シリアを基軸とした中東地域における自国のプレゼンスを保ちつつ、シリアをリビアの二の舞にすることを避けたいようだ。
シリア情勢関係図
シリアの民族・宗派 参考資料: 外務省
アラブ人 | 90% |
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クルド人 | 10% |
アルメニア人 | |
その他 |
イスラム教 | 90% | |
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スンニ派 | 74% | |
アラウィ派 | 16% | |
ドルーズ派 | ||
キリスト教 | 10% |
アナン特使のシリア停戦調停案は失敗
ラドゥス国連事務次長は、12日、最近のシリア情勢に関して記者団から「シリアは内戦状態か」との問いに「そう言えるだろう」と答え、国連高官として初めて内戦状態にあることを認めた。4月、アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)によるシリア停戦に向けた調停案の発表を受け、国連は監視団を派遣。しかし、同国情勢の沈静化が見られないまま、今月7日、アナン特使は自身が掲げた停戦調停案が失敗したことを認めることとなった。最近ではロバート・ムード団長が、国連シリア監視団の駐留期限であった7月中旬を待たずに活動を一時中断したと発表するなど、一連の計画は事実上既に崩壊してしまった恐れがある。
内戦での死者1万4000人超
シリアのアサド大統領は3日、同国が混迷に陥った原因は「国外から仕掛けられた戦争」であり、国際社会から支援されたテロリストが国内の宗派対立を煽っているとし、シリア政府が自国民を虐殺しているとする欧米に反論した。先月25日、中部ホウラで100人以上が大量殺害された事件をめぐり、国連が政府系民兵組織「シャビハ」の犯行であるとした一方、シリアの調査委員会は反政府勢力による犯行との見方を示している。
シリアにおける最近の暴力激化と虐殺に対し、キャメロン首相は「残忍で吐き気を覚える」とし、国際社会は共同して民間人を守らなければならないと主張。英国に拠点を置く反シリア政府人権団体「The Syrian Observatory for Human Rights(SOHR)」は、昨年3月以降シリアでの死亡者は1万4476人で、特に5月13日からの1カ月間の死亡者は2302人であったとしている。
欧米の軍事介入と露中の思惑
同じく内戦に揺れたリビアに比してシリアは民族・宗派関係が複雑であるほか、周辺諸国から孤立していたリビアの故カダフィ大佐とは違い、アサド大統領はイラン政府やレバノンのシーア派過激派組織「ヒズボラ」とも親しい。また、シリアにはリビアほどの天然資源も無いなど、国際社会が軍事介入を躊躇する理由があった。しかしここに来て、シリアに対する軍事介入を示唆し始めた米欧と、それをけん制する露中の間で緊張が高まっている。クリントン米国務長官はシリアに攻撃用ヘリを輸送しているとして、アサド政権を擁護するロシアを批判。一方のラブロフ露外相は、米国が反体制派に武器を供給していると反論に出るなど、米露の非難合戦が激化しているのだ。また、ファビウス仏外相は、飛行禁止空域の設定などを国連安保理に求める意向を示したが、これまで露中は、対シリア決議案に2度、拒否権を行使している。
ロシアにとってシリアは、地中海地域における海軍基地の要であり、中東地域における最大の武器輸出国でもある。また中国はシリアの油田開発に3億ドル(約240億円)規模の投資を行うなど、露中両国ともアサド政権崩壊を望んでいないようだ。メキシコのロスカボスで開催された主要20カ国・地域首脳会議で、プーチン露大統領が「アサド大統領の辞任を決める権利はシリア国民にのみある」とし、対欧米姿勢を示したことで、シリア情勢をめぐる国際社会の協議が暗礁に乗り上げることが懸念される。
「Al-Shabiha」
アサド大統領の出身宗派イスラム教アラウィ派が主体の政権支持派民兵組織。「シャビハ」はアラビア語の「亡霊」が語源で、現代シリアでは「凶悪犯」や「ギャング」を意味する。1970年代、故ハーフェズ・アサド大統領の弟リファートの下で発足。シリア西部地中海沿岸ラタキア市を中心に、ギャング組織として密輸などを行い、地元における強引な用心棒代の取り立てなどで問題となった。2011年、同地で反政府デモの活発化を機に、私服の民兵組織として活動し始める。ナイフで喉を切り裂くなどその殺害方法が残虐で、アサド大統領の「暗殺部隊」として知られるようになった。(吉田智賀子)
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