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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

英国を騒がす「超差し止め」措置とは何か

「ニュースにできない」ことがニュースに
英国を騒がす「超差し止め」措置とは何か

ロイヤル・ウエディングや選挙制度改革と並んで、ここ最近の英国内のメディアを騒がしているのが、「超差し止め(Super-Injunction)」との通称で呼ばれる報道の差し止め措置。日常会話ではまず使われることのないこの言葉が、頻繁に用いられるようになった背景を解説する。

超差し止め措置とは?

報道を差し止め、さらに差し止めが出された事実を公表することも禁ずる措置。この措置への申請が裁判所によって認められた案件については、新聞、雑誌、テレビといったあらゆるメディアで報じることが禁止される。元々は、児童や社会的弱者が報道被害を受けないように擁護することを想定しての措置だとされる。「タイムズ」紙などによると、過去数年間に、少なくとも30件に及ぶ超差し止めの申請が認められているという。


超差し止めに関するニュースを大々的に報じる英各紙


超差し止め措置を請求した英国の有名人たち

ジョン・テリー   サッカー選手
妻子を持つ身でありながら、元チームメイトの元恋人と不倫関係を持っていたとの内容に対して超差し止め措置を請求した。裁判所が請求を棄却した結果、本件に関する報道が過熱。テリー選手がイングランド代表主将の座を剥奪される事態にまで発展した。
アンドリュー・マー   ジャーナリスト
妻子を持つ身でありながら、不倫関係を持っていた同僚を妊娠させたとの内容に対して(後にマー氏の子供ではなかったことが判明)、2008年に超差し止め措置を請求していたことが発覚。時事専門誌「プライベート・アイ」などの告発に応じて、今年4月にこの事実を認めた。
  サッカー選手
妻子を持つ身でありながら、実験ドキュメンタリー番組「ビッグ・ブラザー」の出演者と6カ月にわたる不倫関係を持っていたとの内容に対して、超差し止め措置を請求。この請求が認められたため、同選手の名前は現時点ではまだ明らかにされていない。
  俳優
サッカー、イングランド代表のウェイン・ルーニー選手と関係を持ったとの噂が流れたことで注目を集めた娼婦との関係についての内容に対して、超差し止め措置を請求。この請求が認められたため、同俳優の名前は現時点ではまだ明らかにされていない。
フレッド・グッドウィン卿   ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド前最高経営責任者
自身の私生活に関する内容に対して、超差し止め措置を請求。この請求が認められたため、予定されていた報道内容の詳細はまだ明らかにされていない。同措置が適用されない国会内の審議において、同卿が超差し止め措置を請求していたとの事実が発覚した。

英国を騒がせた超差し止め

英国において「超差し止め(Super-Injunction)」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)するようになったきっかけの一つは、サッカーの名門クラブであるチェルシー所属のジョン・テリー選手に関する不倫騒動だろう。2010年1月、同選手は自身の不倫疑惑に関する報道の差し止めに加えて、同措置の存在そのものを報ずることを禁じる超差し止めを申請。しかし裁判所がこの訴えを棄却したことで、皮肉なことに、各メディアは不倫疑惑と、この疑惑を差し止めようとしたとの事実の両方を大々的に報じた。

報道が過熱したのは、有名人の不倫という内容のスキャンダル性に加えて、「報道の自由を奪う」と捉えられかねない超差し止めという行為が各メディアの反感を買ったからとする見方がある。その後、各紙は超差し止め措置に対する一大反対キャンペーンを一面や社説面で展開。本来であれば報道側に立つジャーナリストのアンドリュー・マー氏が、やはり自身の不倫問題に関して超差し止めを申請していたとのニュースには、とりわけ大きな紙面が割かれた。

超差し止めは社会的事件にも適用

そもそも超差し止めとは、プライバシー保護の必要から生み出された措置だと言われている。テリー選手の一件では、裁判所は「プライバシーの保護というよりも、自身のスポンサー契約を守ることを懸念しているように思える」として申請を棄却。一方で、超差し止めが認められるのは「(報道が行われれば)幼い子供がいじめに遭う」などの状況が配慮された場合が多い。

超差し止めに関する問題は、プライバシー保護を訴える有名人と、プライバシーを暴きたい報道側という対立だけに収まり切らない。2009年には、オランダの石油商社トラフィギュラによる汚染物質の廃棄疑惑においても同措置が発動されている。トラフィギュラ社の廃棄物が高毒性のものであると判断した報告書を入手した「ガーディアン」紙に対して、超差し止め命令が下されたのだ(後に同措置は解除)。また信用危機の発生後に公的資金を注入された大手金融機関ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド前最高経営責任者のフレッド・グッドウィン卿からも超差し止め申請が出されたことが判明している。同措置が適用されない国会内の審議を経て発覚した本件については、現在も議論が進行中だ。

インターネット上の誤報と盗聴事件

ただ、国会の審議という例外中の例外を除いて報道することを禁じられたニュースたちは、実はインターネット上の憶測という形で広がった。超差し止めを申請した有名人の一人との噂が流れたタレントのジェマイマ・カーン氏は、同措置とは何ら関係のない自身とその家族のプライバシーが守られる術がないことに対しての憤りを露わにしている。

プライバシー保護の問題では、多数の政治家や芸能人が被害に遭ったとされている「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」紙による有名人の電話盗聴事件も大きな騒動となっている。超差し止めという究極のプライバシー保護措置が存在する一方で、誤報の被害や、盗聴というプライバシー侵害を守る術がない現実。英国におけるプライバシーの概念は、今、明らかに混乱状況にある。

Kiss and Tell

私的な内容の暴露話を指して用いられる形容詞。主に、有名人男性と過去に交際関係にあった女性が、その関係をタブロイド紙に公表する際などに頻繁に使用される。取材協力者は、こうした話題を提供することと引き換えに、取材費や記事の執筆料として数十万ポンドに及ぶ謝礼金を受け取ることができる場合があるとされる。英国では、英陸相とソ連のスパイとそれぞれ同時に関係を持っていた英国人売春婦の存在が発覚した「プロヒューモ事件」などがそうした暴露話の代表例。タブロイド紙などの売上に大きく貢献する一方、プライバシーの侵害といった問題を常に抱える話題となっている。
 

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