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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

2011年度の予算案が発表 - 「経済の安定と成長」を実現できるか

「経済の安定と成長」を実現できるか
2011年度の予算案が発表

Osborne
予算案の入った鞄を掲げる
オズボーン財務相

オズボーン財務相が、3月23日、2011年度の予算案を発表した。巨額財政赤字を抱える英国経済は、公的支出の大幅削減を余儀なくされている。果たして、この予算によって景気を回復するための経済成長を達成できるのだろうか、また国民の生活はどう変わるのか。今週はこの予算案に注目した。


家族形態別: 新予算による税金の増減比較
(単位: ポンド)

勤労者1人の夫婦に子供2人の家庭

税引き前の
年間所得
純所得
(新予算施行前)
新予算施行後 税引後給与の
増減
25,000 23,425 23,812 387
50,000 38,108 37,361 -747
75,000 52,313 51,861 -452
100,000 67,063 66,361 -702
250,000 142,973 140,371 -2,602
500,000 265,473 260,371 -5,102

両親2人が働く子供2人の家庭

税引き前の
年間所得
純所得
(新予算施行前)
新予算施行後 税引後給与の
増減
25,000 25,348 26,174 826
50,000 40,644 40,476 -168
75,000 56,737 56,723 -14
100,000 72,319 72,056 -263
250,000 157,617 155,315 -2,302
500,000 284,193 278,991 -5,202

1人暮らしあるいは結婚しているが子供なし

税引き前の
年間所得
純所得
(新予算施行前)
新予算施行後 税引後給与の
増減
25,000 19,174 19,362 188
50,000 35,811 35,609 -202
75,000 50,561 50,109 -452
100,000 65,311 64,609 -702
250,000 141,221 138,619 -2,602
500,000 263,721 258,619 -5,102

既婚の年金生活者(75歳以上)

税引き前の
年間所得
純所得
(新予算施行前)
新予算施行後 税引後給与の
増減
25,000 22,415 22,648 233
50,000 40,337 40,270 -67
75,000 55,337 55,270 -67
100,000 70,337 70,270 -67
250,000 147,747 147,280 -467
500,000 272,747 272,280 -467

独身の年金生活者(66歳〜74歳)

税引き前の
年間所得
純所得
(新予算施行前)
新予算施行後 税引後給与の
増減
25,000 21,688 21,888 200
50,000 40,070 39,990 -80
75,000 55,070 54,990 -80
100,000 70,070 69,990 -80
250,000 147,480 147,000 -480
500,000 272,480 272,000 -480

※年金生活者所得はペンション・クレジット分を除く。また個々の数字は家庭状況の詳細によって異なります。あくまでも目安としてご参照ください。

(参考: 2011年度予算、「デロイト」社ウェブサイト、「フィナンシャル・タイムズ」紙ほか)

主要国の法人税の比較 (2011年)

英国 26% 26.0%
ドイツ 29.4% 29.4%
カナダ 31.0% 31.0%
イタリア 31.4% 31.4%
フランス 33.3% 33.3%
米国 40% 40.0%
日本 40.70% 40.7%

参考: 2011年予算、「フィナンシャル・タイムズ」紙ほか


主な狙いは財政再建

3月23日に発表された2011年度の予算案では、「強く、安定した経済」と「成長」、そして「公正さ」が掲げられている。強く安定した経済を実現するためには財政赤字解消策を維持。そして成長に向けて民間投資への支援策や規制緩和を行う。さらには公正で効率的な税金・福祉・年金政策の実施を目標としている。  

財政赤字については、10〜11年度の借入額が1460億ポンド(約20兆円)になる見込み。この額が11〜12年度には1220億ポンド、13年度末には700億ポンドまで減少させることを目標とする。借入額の対国民総生産(GDP)比は、2010年度が9.9%。11年度はこれを7.9%に減少させ、15年度までに1.5%にまで引き下げる方針だ。  

具体策としては、銀行のバランス・シートに対する課税率は0.075%から0.078%に、また北海での石油・ガス生産に対する課税率が20%から32%と大幅に引き上げられる。

法人税は先進国の中で最低に

しかし、緊縮策ばかりでは経済が伸びていかない。そこで策定されたのが、法人税減税の加速だ。現在28%の税率を26%にし、2014年までに23%とする。また中小企業を対象に、調査開発予算に対する税金控除率を12年度から大幅に増やす。さらに21の経済特区を作り、特定地域での経済成長を促す。  

勤労と個人の責任を奨励する「公正で簡素、効率的な税金・福祉・年金体制」を構築するための具体策としては、燃料税を予算案発表日の夕方から1リットル当たり1ペンス分削減するとともに、インフレ率の上昇と連動させることになっていた燃料税の値上げを先送りにした。また若年層の失業者が増えていることを受けて、今後2年間で新たに8万人に対して仕事を経験する機会を与える。ほかにも、65歳以下の国民に対する所得税の控除金額を来年から630ポンド上げて8105ポンドにする、住宅を初めて購入する国民への支援策として住宅ローン補助策を提供することなどが定められている。

国民の間では理解示す声も

この新予算案を、ビジネス界は概ね歓迎した。しかし野党労働党のエド・ミリバンド党首は、政府の赤字削減の速度と規模が大きすぎるとして批判。また26日には、公的支出の大幅な予算削減に抗議する数十万人規模のデモがロンドンで実施されている。  

一方で、公的支出の大幅削減や補助金削減といった、赤字を減らすための緊縮策を「仕方ない」と受け止める人も少なくないようだ。調査会社YouGovによると、今回の予算について「財務相が正しい選択をしたと思うか」との質問に対し、37%が「間違っている」と回答したものの、34%が「正しい」と答え、29%が「分からない」としている。財政削減の規模についての質問には、最も多かった答えが「正しい規模。しかし、もっと時間をかけてやるべき」(29%)。これに「正しい規模である」(25%)が続いた。つまり、削減自体には同意する意見が大部分を占めているのだ。  

公的部門に勤める人を中心に失業者が増える厳しい数年間が続きそうだが、財政を再建し、経済を上向かせるためにはほかに選択肢がないというのが現状なのかもしれない。「トンネルの先の明かり」が見えるまでは辛抱が必要とされるときなのだろう。

Budget Box

財務相が予算案の演説資料を財務相公邸から下院に運ぶために使う、赤い皮に覆われた箱。150年ほど前に、当時のグラッドストーン財務相が、中は黒繻子(じゅす)、外は赤い皮の箱を作らせたのがきっかけ。現在では、予算案発表の日に財務相がこの箱を手に持った姿で写真撮影を行うのが恒例となっている。1965年、キャラハン財務相が慣例を破り、初めて新たに作らせた予算箱を使った。97年以降では、ブラウン財務相も新たな予算箱を用意させている。オズボーン財務相は昨年、グラッドストーンの予算箱を使ったが、箱の傷みが激しいため、今年から新しい箱を使っている。

(小林恭子)

 

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