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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

内部告発サイト「ウィキリークス」とは?

機密情報を世界中に発信する
内部告発サイト「ウィキリークス」とは?

昨年来、内部告発サイト「ウィキリークス」の動向が大きな注目を浴びている。サイトの創始者ジュリアン・アサンジ氏を報道の自由の守り手として賞賛する声が上がる一方で、国家機密を暴露する危険な存在と敵視する見方もある。

創設者ジュリアン・アサンジの横顔
ジュリアン・アサンジ
Lennart Preiss/AP/
Press Association Images

1971年、豪クイーンズランド州生まれ。39歳。内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジャーナリスト、インターネット活動家。スウェーデンで起きた性犯罪容疑(本人は否定)で、昨年末にロンドンで逮捕される。保釈後は、ロンドンの支援家宅に居住中。幼少時に両親が離婚し、国内を点々とする生活が続いた。16歳で「メンダックス」という別名を持つコンピューター・ハッカーに。92年、カナダの電話会社などへのハッキングで有罪となり、その後はプログラマーやフリーウェア開発者としてデータ暗号化、検索エンジンの開発に関わる。内縁の妻(現在は別れている)との間に息子が一人。メルボルン大学で物理学や数学などを学ぶ。2006年にウィキリークスを創設。昨年に米政府・軍関連の機密情報を大量に公開したことから、世界中の注目の的となる。「変わり者」と言われ、特定の居住場所を持たず、昼夜関係なくコンピューターを使って活動する。

ウィキリークス事件の経緯

2006年末   ジュリアン・アサンジ氏が内部告発サイト「ウィキリークス」の創設準備を始める
2007年   同サイトの運営が正式に始まる
2010年 4月 イラクにて米軍へリコプター機内から撮影された、カメラマンや民間人ヘの攻撃映像を公表
6月 ウィキリークスへ情報を提供したとされる米陸軍情報分析官ブラッドリー・マニング上等兵が、情報漏えい関連の疑いで逮捕される
7月上旬 米政府がマニング兵を機密情報不正入手の罪で訴追
7月25日 アフガニスタン駐留米軍の文書約9万点をサイト上で公開
8月 アサンジ氏が、スウェーデン滞在中にある女性2人と出会う。スウェーデン当局がアサンジ氏に対して、この女性たちに対する強姦などの容疑で逮捕状を出す。後にこの訴えは取り下げられる
10月23日 イラク戦争に関わる駐留米軍の極秘文書40万点以上を公開
11月18日 スウェーデン当局が、アサンジ氏に対し再び性犯罪容疑で逮捕状を出す
11月28日 米国の外交公電の公開を開始
11月30日 国際刑事警察機構がアサンジ氏を性犯罪容疑で国際手配
12月1日 通販サイトの米アマゾンが、ウィキリークスへのサーバー貸し出しを停止
12月2日 スウェーデン最高裁が、逮捕状撤回を求めたアサンジ氏の異議申し立てを拒否
12月4日 米ペイパルがウィキリークスへの寄付金の送金業務を停止
12月6日 スイス郵政公社が、アサンジ氏名義の口座を閉鎖
12月7日 英国にいたアサンジ氏が警察に出頭し、性犯罪容疑で逮捕される。クレジット・カード大手の米ビザがウィキリークスとの取引を停止
12月8日 スウェーデン検察庁、スイス郵政公社、マスターカード、ペイパル、ビザなどのサイトが何者かにハッカー攻撃を受けていることが発覚
12月16日 アサンジ氏が保釈される
12月19日 米バンク・オブ・アメリカがウィキリークスとの取引停止を宣言
12月22日 米アップルが、iPhone用のウィキリークス閲読アプリの販売を停止
2011年 1月11日 スウェーデンへの身柄引き渡しを巡る審理を開始

資料: BBC、ガーディアンほか

「メガリーク」で注目集める

匿名で政府や企業などの機密情報を公開するサイト、ウィキリークスが頻繁に話題に上っている。これまでに9・11米大規模テロの際に送受信されたポケット・ベルのメッセージ約57万件、ケニアの元大統領による巨大汚職の実態、イースト・アングリア大学の研究者の気候変動に関する電子メールなどを公表してきた。昨年4月には、イラクにて米軍のヘリコプターがロイター通信のカメラマンや民間人を攻撃する映像を公開。続いてアフガニスタン駐留米軍に関わる機密文書を9万点以上、イラク戦争に関する米軍の機密文書を約40万点、そして昨年11月末からは25万点に上る米国の外交公電の公開を開始。こうした大量の情報公開は「メガリーク」と呼ばれ、米「ニューヨーク・タイムズ」紙や英「ガーディアン」紙など世界の大手報道機関と公開時期を合わせ、大々的に報道された。

外交公電には安全保障上の機密情報が含まれており、米政府高官らは「米国及び諸外国の外交利益に大きな影響を及ぼす」と非難。米政治家の一部では、「アサンジ氏はテロリストであるから殺害されるべき」とする声も出た。一方、多くのジャーナリズム団体が、ウィキリークスの活動を報道の自由の範囲内として擁護している。

ウィキリークスへの包囲網

その後、ウィキリークスや同創設者のジュリアン・アサンジ氏に対し、その活動を阻むような動きが発生した。サーバーを提供してきた米通販サイトのアマゾン、ネット決済の米ペイパル、米クレジット・カード大手ビザやマスターカードが、それぞれウィキリークスとの取引を停止したのである。また、アサンジ氏に対する性犯罪容疑の逮捕状が出され、国際刑事警察機構がアサンジ氏を国際手配するまでの大事に発展した。英国に滞在中だったアサンジ氏は、12月上旬、自ら英警察に出頭し、逮捕となった。

ところが同氏逮捕の翌日から、ビザ、ペイパル、アマゾンなどのサイトがサイバー攻撃に遭う。こうした攻撃をする人々は、「アナニマス(匿名)」と呼ばれ、ウィキリークスの活動を妨害する米企業への反撃活動を独自に行っている。またスウェーデン当局は同国へのアサンジ氏の移送を要求しているが、同氏側はこれに抵抗している模様。同国から米国への移送を恐れていると言われている。

内部告発は悪なのか

一方、ウィキリークスへの機密情報漏えいの疑いで逮捕されたブラッドレー・マニング米上等兵は、軍法会議にかけられる予定だ。有罪となった場合には、計50年余の禁固刑となるという。

1970年代には、米国の極秘資料「ペンタゴン文書」(関連キーワード参照)を、ベトナム戦争の早期終結を願った調査員が米報道機関にリークした。同員はスパイ法を含む様々な重罪違反とされたが、最終的には最高裁の判決で起訴内容はすべて取り下げられた。

ウィキリークスの評価は、その人の「立ち位置」によって評価が変わる。為政者や組織の側からすれば、機密を漏らす内部告発サイトは好ましくないものだ。一方、同サイトを通じて国民がその情報の機密性を含めた是非を判断できるとすれば、民主主義社会に貢献する動きでもある。好むと好まざるに関わらず、私たちはウィキリークスのようなサイトが存在する時代に生きている。

Pentagon Papers

「ペンタゴン文書」。ロバート・マクナマラ米国防相の指示の下で作成された極秘報告書「ベトナムにおける政策決定の歴史1945‐68年」を指す。全7000ページ、47巻構成。同報告書の内容は、シンクタンクの調査員ダニエル・エルズバーグによって米「ニューヨーク・タイムズ」 紙にリークされた。米政府がベトナム戦争を故意に長期化させたことなどを暴露し、後に米国軍がベトナムからの撤退を余儀なくされる一因 になったと言われている。政府は報道差し止め令を裁判所に出させたが、審理の結果、この差し止め令は解除された。

(小林恭子)

 

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