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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

危険な犬対策の新案が発表

威嚇と自衛の道具として飼育増加
危険な犬対策の新案が発表

動物愛護の国として知られる英国。犬や猫を飼う人が多いのはもちろんのこと、チャリティー団体による、虐待されている動物の救助や保護活動などに関するニュースもメディアにたびたび登場する。その一方で、これも動物関連ではあるが、全く違う種類のニュースで、近年しばしば聞かれるのが、どう猛で危険な犬に子供が襲われ、負傷したり殺されたりする事件だ。

危険な犬に関する英国の現行法

1991年危険犬種法(Dangerous Dogs Act 1991)」では、下記の4つのタイプの犬の所有、繁殖、販売、交換、譲渡、販売のために広告を出すことなどが禁じられている。

  • 危険な犬ピット・ブル・テリア(Pit Bull Terrier)
  • 土佐犬(Japanese Tosa)
  • ドゴ・アルヘンティーノ(Dogo Argentino)
  • フィラ・ブラジレイロ(Fila Braziliero)

同法は、上記4つの「タイプ(type)」の犬が違法であると規定しており、「種(breed)」という言葉は使っていない。これは、禁止の対象を、他の犬種の血が混じっていない純血種(pure breed)のみに限定しないためである。

個々の犬が、上記4つのタイプに該当するかどうかは、犬の外見的特徴が、同4タイプの犬に当てはまるかどうかで判断される。住民の通報を受けるなどして、警察や自治体が、違法と思われるタイプの犬を捕獲した場合、上記4つのタイプに該当するかどうかは、個々のケースごとに裁判所が判断する。違法なタイプの犬の所有に対しては、最高5000ポンド(約68万円)の罰金または最高6カ月の禁固刑(または両方)が科せられる。

「ピット・ブル・テリア・タイプ」の犬と判断される可能性のある犬の種類名には、「アメリカン・スタッフォードシャー・テリア」、「アイリッシュ・スタッフォードシャー・ブル・テリア」、「アイリッシュ・ブルー・ノーズ」、「アイリッシュ・レッド・ノーズ」などがある。「スタッフォードシャー・ブル・テリア」は合法である。

また、上記4つのタイプに限らず、すべての犬は、公共の場で「危険な程度までに制御できない状態(dangerously out of control)」になったり、公共の場で他人に怪我を負わせた場合、その飼い主は、同法のもと、違法行為を犯したことになる。刑罰は、最高2年の禁固刑または罰金(または両方)である。


危険な犬への対処に関する政府案

(2010年3月9日発表)(一部)

  • 現在は、犬が「危険な程度までに制御できない状態」になったり、他人を負傷させた場合、飼い主が処罰されるのは、そうした事態が公共の場で発生したケースのみに限られるが、これを個人の住宅敷地内で発生した場合なども含むこととする。
  • 口輪所有、飼育などが合法ではあるが、どう猛で危険である犬の飼い主に対し、警察及び 自治体が、「犬監督通告(Dog Control Notice)」を発行できるようにする。これを発行された飼い主は、犬を紐でつなぐ、口輪をはめる、去勢する、などの処置を取ることを義務付けられる。
  • 犬が人を襲って怪我をさせた場合などに備え、すべての犬に保険をかけることを飼い主に義務付ける。
  • すべての犬に、飼い主の名前・住所などの情報を記録したマイクロチップを埋め込むことを義務付ける。

子供が犬に襲われて負傷・死亡した事件

  • リバプール市で2009年11月、祖母宅で飼われていた犬に襲われて4歳男児が死亡。犬は、男児の叔父が所有していたもので、違法な「ピット・ブル・テリア・タイプ」だった。
  • ウェールズ南部で2009年2月、生後3カ月半の男児が、祖母宅で飼われていたスタッフォードシャー・ブル・テリアを含む2匹の犬に襲われて死亡。
  • イングランド北西部セント・ヘレンズ市で2006年12月末、祖母宅で飼われていた犬に襲われて5歳女児が死亡。犬は、女児の叔父が所有していたもので、違法な「ピット・ブル・テリア・タイプ」だった。
  • レスター市で2006年9月、生後5カ月の女児が、ロットワイラー犬2匹に襲われて死亡。
  • エリザベス女王の妹アン王女が2002年4月、バークシャー州の公園で飼い犬の イングリッシュ・ブル・テリアを散歩中、1匹が逃げ出し、12歳と7歳の男児2人に噛み付き、軽症を負わせた。これを受け、アン王女は同年11月の裁判で、500ポンド(約6万8000円)の支払いなどを命じられた。なおこの同じ犬は2003年12月、エリザベス女王の飼い犬のコーギー犬に噛み付いて怪我を負わせ、コーギー犬は回復の見込みがないと判断され、安楽死させられた。

Source: DEFRA、Directgov、BBC

保険やマイクロチップを義務付けヘ

犬アラン・ジョンソン内相は3月初旬、どう猛で危険な犬から人々を守ることを目的とした新政策案を発表した。イングランド及びウェールズを対象とした同案は、「犬が人を襲って怪我をさせた場合などに備え、すべての犬に保険をかけることを飼い主に義務付ける」、「すべての犬に、飼い主の名前・住所などの情報を記録したマイクロチップを埋め込むことを義務付ける」などの提案が盛り込まれており、現在、警察や動物保護団体などを対象とした意見聴取作業が行われている。

同案発表の背景には、特に都市部の貧困地区で、一般に「不良少年」と呼ばれるような青少年たちが、自分の「強さ」を誇示するためにどう猛な犬を飼う傾向が見られること、また、こうした犬が子供などを襲う事件が発生していることがある。危険な犬の対策法である「1991年危険犬種法」では、「ピット・ブル・テリア」「土佐犬」など4つのタイプの犬の所有、繁殖、販売等が禁止されている。しかし、どう猛な犬を街中で連れ回す不良少年たちには、違法なタイプの犬と合法なタイプの犬を交配・繁殖させることで、法に触れないようにしながら、恐ろしげな風貌の犬を所有しているケースも少なくない。交配させる合法な犬のタイプでは、ロットワイラー犬やスタッフォードシャー・ブル・テリア犬などが人気だという。

ナイフに代わる「武器」として飼育か

犬不良少年たちが、「恐ろしげな風貌」の犬を飼い、連れ回す理由は、他の不良少年たちを威嚇すると共に、自分を守る道具にするためであるとされており、マスコミなどでは、自らの「タフ・ガイ」としての地位を示すという意味からか、こうした犬は総称して「ステータス・シンボル」ならぬ「ステータス・ドッグ」と呼ばれている。警察や獣医などの間では、近年の青少年によるナイフ犯罪増加を受け、警察によるナイフ所持の取り締まりが強化されたため、刃物に代わる「武器」として、どう猛な犬を連れ回す少年が増えたのではないかという意見も聞かれる。

危険な犬に子供が襲われた最近の事件では、昨年11月、リバプール市で4歳の男児が、叔父が所有していた違法なタイプの犬に噛み殺されたというものがあった。こうした背景を受け、ロンドン警視庁は昨年3月、危険な犬の対処専門班を設置し、前述の1991年法の下、これまでに1000匹以上の犬を捕獲したという。

問題の根源に対処すべきとの声

冒頭で述べた新政策案については、既に様々な反応が出ている。まず、すべての飼い犬に保険をかけることを義務付けるのは、良心的な犬の飼い主にとって不公平であるなどの批判が出ている。また、単に実行不可能であるとの指摘もある。

さらには、そもそもの問題は、少年たちに、ナイフの代わりに犬を連れ回すようにさせる社会のあり方であり、犬そのものではなく、根源にある貧困や社会的排除(social exclusion)などの問題に取り組むべきであるとの声も聞かれる。新政策案は、近日中に実施が予定されている総選挙での票集めを狙ったものとも言われているが、多くの人に影響する問題であり、選挙後も次期政権による対応が継続することが期待される。

RSPCA

1824年設立の、世界最古の動物愛護団体。正式名称は「Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals」で、「王立動物虐待防止協会」などと訳される。本部はウェスト・サセックス州サウスウォーター。虐待されたり捨てられた動物、事故や災害などで怪我をした動物の救出・保護、それら動物が野生に戻るためのリハビリ処置、里親探しなどを行う。また、各地に動物病院及び動物クリニックを設置し、病気の動物の治療を行っている。コーギー犬好きで知られるエリザベス女王もパトロンの一人である。ウェブサイトは www.rspca.org.uk

(猫)

 

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