Venus(2006 / 英)
ヴィーナス
モーリスは老齢のベテラン俳優。ある日、同年代の役者仲間イアンの姪の娘ジェシーが田舎からやって来て、彼らの生活をかき乱すが、モーリスはジェシーに恋してしまい……。
監督 | Roger Michell |
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出演 | Peter O'Toole, Leslie Phillips, Jodie Whittakerほか |
ロケ地 | St. Paul's Church |
アクセス | 地下鉄コベント・ガーデン駅から徒歩 |
- 今回の捜査対象「ヴィーナス」ですが、観ていてたびたび切なくなりました。ピーター・オトゥールの名演に拍手です 。
- いやー、いまだギラギラと脂っこい中年のつもりでいて、実は老いを意識し始めている私なんぞは、ほんとにしみじみと観てしまったよ……。
- 老境に入った主人公が、若かりし頃はブイブイ言わせたベテラン俳優であるという設定も、何か哀愁を誘います。しかも暮らしぶりが非常にリアルで……。有名人といっても、そのへんの爺さんと同様に老いや孤独と向き合いながら、ごく普通の日常を送っているんですよね。
- ちなみに彼らの生活圏は、ロンドン北部のKentish Town界隈です。
- そういえばタロウって以前、あのへんに住んでなかったっけ?
- そうなんです。ピーター・オトゥール扮するモーリスが、俳優仲間のイアン、ドナルドと毎朝通っている「Cabin Cafe」は、ナショナル・レールのKentish Town West駅近くにある店ですし、イアンが住んでいる「Heathview」も、Gospel Oak駅のすぐ近く、Gordon House Roadに実在しています。Kentish Town High Street沿いのローカル・ショップも数軒、お目見えしてますね。
- モーリスが出演する芝居の撮影が行われるのも、近隣のハムステッド・ヒース内にある「Kenwood House」でしたよね。
- それと登場人物がベテラン俳優という設定ゆえ、劇場関係のスポットがあれこれ出てきて興味をそそられるね。
- はい、まずモーリスがジェシーを観劇に連れて行くのは「Royal Court Theatre」です。その後、Tottenham Court Road駅近くのクラブ「AKA」で飲むわけですね。
- また、ジェシーと男に部屋を乗っ取られたモーリスが、ふらりと足を運ぶ野外劇場は「Regent's Park Open Air Theatre」です。
- モーリスとイアンが紳士クラブで一献交わした後、教会に行き、俳優たちの記念額を前にゆるりと踊るシーンが私は好きだね。
- 紳士クラブは、実際にピーター・オトゥールもメンバーの一人である、かの有名な「Garrick Club」ですね。そして教会はコベント・ガーデンに佇む「St. Paul's Church」です。こちらはActor's Churchとも呼ばれていて、ここで葬儀を行った歴代の名優たちの記念額が壁にズラリと掲げてあるんですね。
- おっとそれから、メイン・モチーフでもある裸体のヴィーナスの絵だが……。
- あれはナショナル・ギャラリー所蔵の、ベラスケス作「鏡のヴィーナス」ですね。
- モーリスのファンタジーとも言えるわけだよな。しかし人によっては、モーリスがただのエロ爺にしか見えないかもしれないし、「いくつになっても男って……」と呆れるかもしれない。でもなあ、それのどこが悪いんだ。やっぱり人間、いくつになっても異性に美を追い求め、夢と憧憬を抱いていたいじゃないか。特に日本だと、年老いてからの恋心って何か横しまなものだと思われがちだが、欧米人はその点、生涯現役って感じでいいなあと思うわけだよ。
- あ、でもこの作品、「マイ・ビューティフル・ランドレット」などを手掛けているハニフ・クレイシの脚本なのですが、実は彼、谷崎潤一郎の「瘋癲(ふうてん)老人日記」に着想を得て本作を書き上げたそうですよ。
- なにぃ、もとは谷崎であったか。うーん、こりゃ一本取られたな……。
老いは誰にでも訪れる。頭では分かっているけれど、受け入れるのはなかなか難しい。そんな感情の機微を、辛辣なユーモアとともに織り込んで描いた珠玉のドラマだぞ。ところで最後にモーリスとジェシーが海へ行く場面を見て、自分だったらああいう時どこに行くかなあと考えたよ。意外とパッと思い付かないもんだな。ちなみにあの海辺は、牡蠣の名産地としても知られるケント州のWhitstableだよ。
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