第174回: 近年の監査厳格化
近年の監査厳格化は、決算や監査における不祥事の対策だけでなく、急激なテクノロジー進化によるビジネス・モデルや管理体制の複雑化に対応するものでもあります。監査を受ける企業側でも監査対応において影響が生じています。
ここ数年、監査人からこれまで聞かれなかったような質問や資料の依頼が急増していますね。
近年の国際監査基準(ISA)の度重なる改正が背景にあります。主なものですと、ISA570が改訂され、ゴーイング・コンサーン評価手続きが大幅に強化されました。適用がちょうどコロナ禍に重なり、多くの企業が監査人からのゴーイング・コンサーンに関する詳細な説明やエビデンスを厳しく求められたはずです。
またISA315の大幅な改訂がありました。主要な変更エリアとしては、リスク評価に対するアプローチに関するものと、よりIT統制に比重をおいた内部統制の理解に関する指針が挙げられます。監査人からは認識された各リスクに対してこれまでと角度を変えた質問や、手続き方法の変更があったかもしれません。また、複雑化や非可視化が進むITによる内部統制を理解するために、これまでになかったIT環境に関する詳細なヒアリングや資料の依頼が増加したことを感じられていることでしょう。
今後も監査方法の変更はありそうでしょうか。
ISA600が改訂され、2023年12月15日以降に開始される会計年度より適用されます。連結決算を行う英国子会社、または本社連結決算監査の対象となっている英国子会社は変更の影響を受ける可能性があります。改訂されたISA600では、積極的なグループ監査品質管理を明確に求めており、構成単位監査人とのコミュニケーション強化、トップダウン・アプローチによるグループ全体からのリスク評価、そしてグループ監査における重要性の概念の大きな変更と、主なものだけ挙げても多岐にわたります。
監査を受ける企業側としては、具体的にどのような影響が考えられますか。
例えば、英国外に子会社があって、英国で連結決算を行っている場合、英国監査人による海外子会社監査人へのインストラクションが変更される可能性があります。重要拠点という概念が廃止され、グループ監査における構成単位の考え方が大きく変わることで、これまで重要拠点から外れていた海外子会社が、今年からグループ監査のスコープに組み込まれたり、これによって海外子会社監査人の監査ファイル閲覧が要求されたりすることは十分にあり得ます。手続きの強化によって、会社側も子会社監査の品質を重視する必要が出てきます。同様に、日本の親会社グループ監査における英国拠点のスコープが変更になり、監査法人間に求められるコミュニケーションの粒度が上がったり、これまで実施されていなかった監査ファイル閲覧が組み込まれたりする可能性もあります。英国での監査品質はこれまで以上に重要になるでしょう。
負担は増える一方ですね。
ファイル閲覧は現地に足を運ぶ以外にもテクノロジーを使用した方法も触れられており、今後はオンライン閲覧やウェブ会議による実施が定着していくと考えられます。重要性についても、数値による杓子定規的なアプローチから、実態をベースとした構成単位の考え方に変わります。的確に絞られたスコープが組まれることで、より合理的な手続きに置き換えられることも期待されます。
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高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。