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Tue, 19 March 2024

EU 国民投票(6月23日)残留派・離脱派 Who's Who

過去数年にわたり、英国をそして世界中を騒がせてきた国民投票がいよいよ今月23日に実施される。この投票を通じて、英国は欧州連合(EU)を離脱または残留するかを決定。この重大な局面を前にして、英国ではそれぞれの選択肢に対する是非をめぐった議論が交わされている。果たして、誰が、どんな理由で何に賛成または反対しているのか。政治家、業界団体、市井の人々などの意見を拾った。

EU離脱の是非を問う国民投票とは?

英国では近年、欧州連合(EU)の加盟国であり続ける意義を疑問視する声が大きくなっている。こうした状況を受けて、キャメロン首相は、英国にとってより有利な条件を引き出すためのEU改革交渉を行いながら、EU離脱の是非を問う国民投票を行うことを公約。その国民投票が6月23日に実施される。投票者は、「英国はEU加盟国として留まるべきか、EUを離脱すべきか」と書かれた用紙上にある選択肢のうち、自身の希望を示すチェックボックスに「×」を記入。投票権を持つのは、①英国または英領ジブラルタル在住者、②18歳以上、③英国、アイルランドに加えて、インド、カナダ、南アフリカなどを始めとする英連邦加盟国の国民、という3点を満たす人々だ(規定の条件を満たした海外在住の英国民も投票資格あり)。

残留派 52%
離脱派 48%
(世論調査会社Yougov調べ、5月18日付)

残留派「EU加盟のデメリットは改善され得る」
デービッド・キャメロン首相

デービッド・キャメロン

今回の国民投票の特徴は、国民にEU残留か離脱かの二者択一を問う一方で、政府そしてキャメロン首相自身は残留への希望を明確に打ち出していること。国民投票についての説明が記載された政府の公式ウェブサイトにも、EUに残留するメリットが並べられている。逆にデメリットに関しては、交渉を経て、既に大幅に減少したと主張。キャメロン首相は、「単一通貨ユーロ圏に参加しない」「独自の国境管理を行う」「EUのさらなる政治統合には加わらない」「新たなEU移民に対しては福祉手当受給の制限を強める」「EUの官僚主義を改める」ために、EU改革を推し進めていくとの決意を述べている。ただし、同じ保守党の内閣閣僚からも離脱派が多数生まれており、一枚岩ではないというのが現状だ。

残留派「ロンドンを拠点として
EU域内で自由に取引したい」
シティ・オブ・ロンドン自治体

シティ・オブ・ロンドン

ロンドンのギルドホール(写真)に事務所を構えながら、世界的な金融の中心地であるシティの行政を担う「シティ・オブ・ロンドン自治体」は、EU残留支持を打ち出す声明を発表。シティに密集する各大手金融機関は、英国内だけではなく、EUに加盟する各国においても様々な取引を行っている。この状況は、EU加盟国の特典として、EU域内であればロンドンを拠点としたままで取引を行うことが法的に認められているという恩恵に依る部分が大きい。逆に英国がEUを離脱した場合は、EU域内に子会社を設置しなければ同域内で取引を行うことができなくなる。そこで各金融機関では、英国がEUを離脱した場合にはパリなどEU圏内の主要都市へのオフィス移転や一部従業員の移動を検討している。

残留派「EUを離脱すれば我々の業界は大きく衰退する」
俳優ベネディクト・カンバーバッチら

ベネディクト・カンバーバッチ

人気俳優のベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトリー、ジュード・ロウや、ファッション・デザイナーのヴィヴィアン・ウェストウッドに気鋭アーティストのトレイシー・エミンといった英国を代表する300人近くのアーティストたちが、EU残留を望む嘆願書に署名している。この署名運動を主催したEU残留派の団体「ブリテン・ストロンガー・イン・ヨーロッパ」によると、英国のクリエイティブ及びデジタル産業は現在220万人を雇用。同産業は数十億ポンド相当のサービスを関税・非関税障壁が撤廃されたEUのいわゆる「単一市場」に輸出し、その恩恵を被っているという。そこでEUから離脱すれば、英国のエンターテインメントやファッション業界は「大きく衰退する」と警鐘を鳴らしているのだ。

残留派「英国から欧州各地への旅費が値上がりする」
イージージェット

イージージェット

格安航空会社イージージェットのキャロリン・マコール最高経営責任者は、EUを離脱した場合、英国人が欧州各地に出掛ける際の旅費は割高になると予想している。EU加盟国は同圏内の飛行を比較的自由に行うことができるが、非EU加盟国には新たな航空規制が課されることになり、こうした規制への対応にかかる費用は航空運賃に反映されると指摘。また英国がEUを離脱した場合はポンドが下落することが見込まれているため、英国人がユーロなど海外の通貨を使う際には実質的な値上がりとなると述べている。またキャメロン首相は、欧州へ家族4人で1週間の旅行に出掛けた際の費用が最高230ポンド(約3万7000円)値上がりする可能性があると警告している。

残留派「日本企業の投資・雇用の減少につながる」
在英日系企業

在英日系企業

英国に拠点を置く日本企業が多数加盟する在英日本商工会議所が在英企業333社に対して調査(回答127社)を行ったところ、残留を望む企業は119社。一方の離脱を支持する回答はなんと0だった。理由は「投資の減少につながる」「雇用の減少につながる」「コストの増加につながる」など。また「今後の状況により対応するので、現状では分からない」との回答も多数。英国内に建設した工場で高速鉄道用の車両の生産などを行っている日立製作所の中西会長も、世界の財界リーダーたちと共に嘆願書に署名するなどしてEU残留への要望を示している。

残留派「欧州の優秀な人材を確保できなくなる」
サッカー代理人

サッカー代理人

世界屈指のサッカー・リーグと言われるイングランドのプレミア・リーグには、スペイン、イタリア、フランスといった欧州のサッカー強豪国出身の選手が多数所属している。EU出身のサッカー選手は現在、労働許可を取得する必要がない。しかし、英国がEUを離脱すれば話は別だ。その場合、EU圏外の選手と同じように、所属代表チームの国際ランキングと出場試合数に応じて労働許可が発行されるため、この条件を満たさない選手は不利になる。サッカー選手の代理人として活動するレイチェル・アンダーソン氏によると、プレミア・リーグで現在活躍する欧州選手の約半数はこれらの条件を満たさないことが見込まれている。中には一挙に11人の選手を失うことになるクラブも存在するという。

EU圏外の選手が英国でサッカー選手として労働許可を自動的に取得するための条件
出身国代表チームの国際ランキング過去2年間に行われた国際試合に
出場していなければならない割合
1~10位 30%以上
11~20位 45%以上
21~30位 60%以上
31~50位 75%以上

離脱派「カナダのように経済分野に
限った協定をEUと締結」
ボリス・ジョンソン下院議員

ボリス・ジョンソン

今年5月までロンドン市長を務め、現在は国会議員として活動、キャメロン内閣に特別招聘されるなどして次期首相候補との呼び声も高いボリス・ジョンソン下院議員は離脱派の筆頭。EUを離脱することで加盟国としての様々なデメリットを解消し、代わって経済の分野に限ってEUと新協定を結ぶべきだと訴えている。同議員は、実際にカナダは独自の経済貿易関係を結ぶことで、EUに加盟せずともその単一市場へアクセスできる状況の構築を目指している最中であると指摘。つまりEUに加盟していることの最大の利点は維持したままで、EU予算への拠出やEU圏内からの移民の受け入れといった負担は回避することで、英国の主権を守ろうと呼び掛けている。

離脱派「英国への移民の流入を制限すべき」
ナイジェル・ファラージUKIP党首

ナイジェル・ファラージUKIP党首

今回の国民投票が実施されるきっかけを作った言わば張本人。「独立」の名を掲げる党名からも明らかなように、反EU政党として知られる英国独立党(UKIP)の党首として、かねてから英国のEU離脱を訴えてきた。「移動の自由」を掲げるEUを離脱することで英国独自の移民政策を実施し、医療、住宅、教育、治安、福祉の分野に負担をかけている移民の流入を制限すべきと主張。同調する人々からの支持を集めた同党は、存在感を拡大させてきた。また本来は同じく右派とされる保守党に脅威を与えるようになり、保守党議員がUKIPに鞍替えする事例も発生。キャメロン首相はEUに関する不平不満についての抜本的な対応を余儀なくされ、EU改革と国民投票の実施を公約するに至ってる。

離脱派「EU拠出金を英国の公共サービスに充てよう」
Vote Leave

Vote Leave

EU離脱に向けての政治運動を展開する代表的な団体が「ボート・リーブ」。彼らがEUを離脱すべきと考える根拠の一つが、英国からEUに支払われている多額の拠出金だ。同団体によると、EUはその財政を支えるために加盟国に対して拠出金の支払いを課しており、英国は年間180億ポンド(約2兆9000億円)を負担。同団体は、この金額を国民医療制度(NHS)などの公共サービスに充てるべきと主張している。一方でこの膨大な金額の信ぴょう性を疑問視する声も。農業大国が多く加盟しているEUの予算は農業政策に充てられる割合が大きい一方で、英国は農民が比較的少ないなどの事情を鑑みて、英国にはEUから多額の払い戻し金が支払われているからだ。よって実際には英国の拠出金は半額程度であるとする見方もある。

離脱派「国籍ではなく能力で移民の受け入れを判断すべき」
バングラディシュ仕出し屋協会

バングラディシュ仕出し屋協会

EU圏内における移動の自由を認めたがために、仕事を求める移民が英国に殺到して悲鳴を上げたのは英国民だけではない。EU圏外から来英した移民たちの頭をも悩ませているのだ。英国内に1万2000店あるパキスタン系カレー店が所属する「バングラディシュ仕出し屋協会」のパシャ・カンダカー会長もその一人。EU加盟国からの移民の流入は制限できないため、代わってアジア諸国などのEU圏外の人々に対する就労許可の条件が厳しくなってきている。このため、現状ではパキスタン人シェフを雇用するのが非常に難しくなっているという。カンダカー会長は、EUから離脱することで圏内の移動の自由を廃し、国籍ではなく、技術の有無によって移民を雇用する制度への変更を要望している。

離脱派「他国在住の家族が福祉手当を受け取るのは不公平」
ロンドン・チャイニーズ・コミュニティー・センター

ロンドン・チャイニーズ・コミュニティー・センター

英国の中国人社会を代表するロンドン・チャイニーズ・コミュニティー・センターのクリスティーン・ヤウ会長(写真)も英国のEU離脱に賛成する移民の一人。彼女が気に掛けるのは、福祉手当のあり方だ。現行の法律では、例えばEUに加盟する東欧の労働者が英国に出稼ぎに来た場合、母国に残した家族が英国の扶養手当を受け取ることができる。EU出身者は、同圏内に在住または働く限りにおいて、その国の福祉手当を享受できると定められているからだ。ところが、母国に残した家族は英国の税金を払っていない。扶養手当の受取人は被扶養者ではなく扶養者であるために起きる現象である。一方で中国に在住する中国移民の家族は英国の福祉手当を受け取ることはできない。同じ移民なのにこれは不公平、福祉手当の受給は税金の支払いと引き換えに行われるべきというのがヤウ会長の考えだ。

離脱派「EUが決めた法律に従いたくない」
俳優マイケル・ケイン

マイケル・ケイン

ベテラン俳優のマイケル・ケインは、BBCのインタビューで「顔の見えない何千人もの官僚が作ったルールに左右されるべきではない」との理由で「何らかの非常に大きな変化がない限り、(EUを)離脱すべき」との見解を述べている。離脱派によると、英国の法律の実に6割はEU関連の法律・規則・指令などに従う形で定められたもの。英国民による選挙を経て選ばれた国会議員たちが英国の議会を通じて立法化するというのが本来の民主主義における手続きであるにも関わらず、実際にはEUの官僚によって英国の法律が定められてしまっている、と考える離脱派は決して少なくない。

バナナ曲がったバナナは食べられない?
EUでは、各国の国内法に優先する「規則」が定められている。EU離脱派がかつて問題視していた規則の一つが、野菜や果物などの品質保証を目的とした格付けの基準を定めたもの。その中に「妙に曲がったバナナ」は最高品質とは認めないとの条項があった。このことから、一部ではEUの規則に従えば「曲がったバナナが食べられなくなる」と反発。この規則は後に撤廃されたが、現在でもEUの規則がいかに理不尽であるかを示すエピソードとしてよく言及されている。
 

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