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早稲田アカデミー 夏期講演会 in ロンドン
Sun, 09 August 2020

第1回 戦争が好きな人はいないよ。

ロンドンのBank駅からDLR線でしばらく行くと、Custom House for ExCel駅に着く。ロンドン随一の展示会場ExCelは、その目の前だ。日本でいえば、幕張メッセのような建物で、産業やレジャー関係の大規模展示会がしばしば開かれる。

昨年9月中旬には、2年に1度の「Defence Systems & Equipment Internationa(l DSEi、国際防衛システム・装備展示会)」が開かれた。世界中の武器メーカーが最新の兵器を展示・販売する催しだ。広い会場には、戦車から装甲車、ミサイルとその発射システム、機関銃、自動小銃などが数え切れないほど並んでいた。核兵器と地雷、クラスター爆弾以外は、何でもあったと思う。中国企業は拷問用具もPRしたほどだ。

英米のPrivate Military Companyも出展していた。戦争請負会社の異名を持つPMCは、特殊な訓練を積んだ「武装警備員」を戦地に派遣する会社で、正規軍の兵隊と同じような行動を取る。イラク戦争で多数のイラク市民を殺害したと非難された米国の「ブラック・ウォーター社」も、会場にブースを構えていた。「社員」の迷彩服やヘリコプターを見ていると、正規の軍隊と何も変わらない。

会場を何度か周回した。

ロシア国営兵器貿易会社の担当者は、陽気なおじさんである。「一番評判を呼んだもの? 夜間用攻撃ヘリコプターですよ」と彼。揚陸艦3隻の韓国への売却が決まったうえ、最新のフリゲート艦にマレーシアなど東南アジア諸国が強い関心を示したと言い、実に満足そうだった。日系企業では富士通の英国法人も出展し、トルコ、ヨルダンなど中東勢も目立った。チェコやポーランドなど東欧企業が懸命に最新兵器を売り込む姿勢も目に付いた。

出展企業は37カ国、計約1400社。これに対し、入場者は日本も含め49カ国から約2万6000人(4日間)に達したという。会場では、各国の将校たちが軍服姿で闊歩していた。紛争を抱え敵同士であるはずの将校たちが、混雑する通路で行き合う。そして、圧倒されたのは、会場の「明るさ」だ。

ニコラス・ケイジが主演した映画「Load of War」を見たことがあるだろうか。ソ連崩壊前のウクライナに生まれた主人公が、米国に渡り、世界有数の武器商人になる物語だ。その中で兵器ショーの場面が登場する。キャンペーン・ガールが戦車の上に乗って、音楽に合わせて踊りまくるのだ。モーターショーと同じようなノリである。「DSEi 」では、踊る女性こそいなかったが、各社の展示コーナーには多数の女性が待機し、来場者に「お飲み物はいかがですか」「シャンパンやワインもご用意してます」と声を掛ける。軽食コーナーを設けた企業もあったし、実際、多くの人がグラス片手に説明を受けていた。

会場のカフェ・エリアには、巨大な画面が設置されていた。最新のミサイルが建物を破壊するシーン、兵士が最新の銃を連射するシーンなどを休みなく放映し、スピーカーからは大きな爆発音が途切れない。歩き疲れた人は、そうした映像を見ながらアルコールやコーヒーを飲み、食事も楽しむのだ。

これが、私の見た、ロンドンの兵器見本市の光景である。

私は小さいころ、両親からよく第二次世界大戦の話を聞かされた。徴兵で出征した父からは、中国での戦場のことを。母からは郷里・高知の大空襲のことを。「あの晩、高知の空がどればあ(どれくらい)真っ赤になったか。一生、よう忘れん」という言葉を何度も聞き、戦争の恐怖が体中に染み込んだ。

記者になって取材した、ふつうの人々の戦争体験も、苛烈で悲惨だった。ロンドン郊外で2年前に取材したアリ・アッバス君(16)もその一人だ。彼は12歳のとき、イラクのバグダッドで米軍の空爆を受け、両腕を失った。慈善団体の招きで「敵国」だった英国に渡り、学校に通っている。サッカーが大好きで、屈託がない。取材中も冗談の連続だったが、自分を傷つけ、肉親を奪ったイラク戦争についての質問には少し考え込んだ。そして、こう言った。

「戦争が好きな人はいないよ」

いや、しかし、アリ君。この世には、戦争が好きな人がいて、そこで儲けたい人がいるんだよ。もっともらしい「大義」を掲げてね。

 
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高田 昌幸:北海道新聞ロンドン駐在記者。1960年、高知県生まれ。86年、北海道新聞入社。2004年、北海道警察の裏金問題を追及した報道の取材班代表として、新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。
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