第239回 春の到来を告げる英国のボート・レース
先月26日(日)、英国に春の到来を告げる伝統の一戦、名門オックスフォード大とケンブリッジ大のボート部対抗レガッタ戦がテムズ川で行われました。文武両道の若手8名のこぎ手の握る櫂 の水かきはオ大が濃紺色、ケ大が淡青色で各校のスクール・カラーを象徴しています。オ大は心の底がダーク(濃紺)だ、ケ大はビビッて顔色がペール(淡青)だ、と応援席はビールを片手に競技前から大いに盛り上がっていました。
春の風物詩、テムズ川のボート・レース
一緒に観戦していた知人が船舶工学に詳しく、船についていろいろと解説してくれました。このレガッタ戦のように力任せに櫂を漕ぐのが西洋式、効率よく櫓 を漕ぐのが東洋式だそうで、それぞれ船の推進方法が異なります。大ざっぱにいうと、櫂は水かきに働く水の抵抗力で船を進ませ、櫓は水中をかき回して生じる揚力で船を進ませるとのこと。産業革命後、櫂が外輪船(パドル船)に、櫓がスクリュー・プロペラ船に発展していったそうです。
櫂と櫓の違い
そういえば、江戸時代末期に黒船が来航した際、ペリー提督が乗ってきたサスケハナ号は巨大な外輪船でした。当時の日本人は蒸気船も外輪船も同じものと考えたかもしれませんが、その14年前に英発明家ヘンリー・ペティ・スミスがスクリュー船を造り、1845年には同じ馬力の外輪船アレクト号とスクリュー船ラトラー号が綱引きで力比べの実験を行いました。外輪船が敗れ、その後、蒸気船はスクリュー・プロペラ船に取って代わられていきました。
スクリュー船「ラトラー号」(左)と外輪船「アレクト号」(右)の綱引き
船底の形も面白いよと知人が話を続けます。レガッタに使われるシェル艇は船底が貝殻のように薄い曲面でできており、これは波のない水域を直進する場合に最も速度の出る形状だそうです。半面、横揺れに弱く、波浪の高い海域では使われません。また、一般的に船は水から受ける抵抗をいかに減らすか、つまり、水面に接する船と水の摩擦抵抗を減らし、航行中に生じる波(=造波抵抗)を抑えることが航行を効率化する秘訣だそうです。
船底の違い(上)と船が受ける抵抗(下)
船の用途はさまざまで、荷を運ぶために船幅を広げたり、船底を深くしたりします。航行する際に船首に衝突した水面が盛り上がり、複雑な波が生じて後方に流れて行きますが、そうした造波抵抗を軽減させるのが喫水線下の船首に設けられた球状の突起物、バルバス・バウです。宇宙戦艦ヤマトの波動砲の砲門と思いきや、現代の大型客船やタンカーに必要な装置になっています。勿論、競技用ボートにバルバス・バウは必要ありません
バルバス・バウは球状船首とも呼ばれる
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