中国のプレゼンス拡大
香港発ヨハネスブルグ行きの航空機は中国人でいつも満席との報道がある。彼らは、ヨハネスブルグを基地にアフリカ各地へ出稼ぎに行くそうだ。今やボツワナのどの小さな街にも中国人衣料店があるという。それらの店の中には、中国本土の公務員による副業という形を取る者も多いと聞くから驚きである。資本主義の徹底は著しい。中華料理店はもちろん既にあり、中国電化製品店が立ち並ぶのも時間の問題であろう。人口4600万人の南アフリカに在住するアジア人は110万人。そのうち日本人は1000人ほど、中国人は30万人と言われている。残りはインド系である。
加えて、ここ3年ほどで中国はアフリカの資源、特に原油やレアメタルについての採掘権などの利権を、国際価格をはるかに上回る高価格で落札、資源囲い込み姿勢を強化している。首脳外交も積極化しており、昨年、胡錦濤主席がアフリカ各国を歴訪したことは記憶に新しい。中国は世界の工場になったと言われるが、ヒトも輸出している点が日本との大きな差である。
一方、南アフリカへの欧州諸国の対応としては、製造業の強いドイツがBMWなど自動車関係の工場を新設し生産量を増大させている。英国は金融と不動産である。バークレイズバンクが銀行を買収したほか、不動産関係の投資も飛躍的に増えている。また、インドほどではないが、英語が公用語であることから、テレフォンセンターなどのアウトソーシングも行なわれている。資源関係企業は、植民地時代からがっちり英米資本が押さえている。
南アフリカの経済
南アフリカ経済は、以上のような中国の勃興によるメタル、鉱物資源国としての恩恵や与党ANC(アフリカ国民会議)政権の10年に及ぶ政治的な安定を背景に、設備投資を中心に安定的な経済成長を続けている。設備投資が好調で、工業生産の伸びが著しく、社会のインフラ、特に電力の不足が深刻な問題になっているほどである。その結果、停電がしょっちゅう起こり、民生用のエネルギーを産業用に振り向けている。
金融市場はこの経済成長を見る前から動いており、南アフリカの通貨単位であるランドは対ドルで2004年までは一貫して上昇基調にあり、投機的な資金(特に日本の投資家による投資信託経由の資金)がかなり入った(下記グラフ参照)。
足許では、副大統領の汚職などスキャンダルによる政治的な不安定を材料に通貨が下落し、投機ブームは落ち着きつつあると評価できる。しかし、今後も一貫して下落が続くとは考えにくい。中国やインドなどの資源需要の増大はすぐには止みそうもないこと、またANC自体の安定性にも当面は疑問がないことを鑑みると、南アフリカ経済のリスクは、多少の為替の振れを伴うことはやむを得ないとしても、小さいと見ることが出来る。ただし、世界の金融市場全体、特にエマージング通貨の一服が質への逃避(金融市場の資金が安全資産に逃避すること)につながれば急落の恐れがないとは言い切れない。
黒人中流階級の勃興に課題
サッカーのW杯やオリンピックの初開催国は、その時に勃興しつつある国であることがある。東京、北京五輪。次回の南アフリカW杯のときには、サハラ砂漠以南のアフリカ経済の約4割を占める南アフリカの存在感は、一段と増していると考えられる。そうすると課題は政治的な安定である。
ヨハネスブルグは世界一治安の悪い街と聞く。犯罪を減らすためには、失業を減らすほかない。貧富の差の拡大をとどめ、富を分配する方式をANCはどう考えるのか。人口の80%を占める黒人の収入は、90年に全国の35%に過ぎなかったが足許では50%まで上昇した。まだまだ貧富の差は小さくない。勃興する黒人中流階級が経済的ヘゲモニーを握れるのか。最大のリスクは、マンデラ氏の寿命である。政界を引退しても、和解の象徴である彼が生きている限りは問題ないが、底流の白人、黒人の貧富の格差問題が解消したわけではない。押さえが外れたときに南北問題は表面に現れる。ユーゴの例を見ても明らかであろう。一国内で南北問題が存する南アフリカこそ資本主義、民主主義、民族問題の世界指標といえるのではないか。
(6月13日脱稿)
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