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Thu, 28 March 2024

第112回 投資銀行(インベストメント・バンク)の復活

資本主義のフロンティア

自由競争と資本主義の下では、人々のニーズのあるところにお金が集まり、そのお金を利用して、更に次のニーズに応えるための投資を行う企業や人のところにまたお金が集まる。こうして、お金は人々のニーズを満たす企業や人に集中していく。ニーズは肉体的(楽をしたい)、そして精神的(楽しみたい)な欲求から生じることが多いが、人々が欲求を自覚しない場合、企業側が新商品やサービスを作り上げてニーズ自身を掘り起こすことがある。米国の発明王エジソンによる数々の発明や、インターネットやiPodもそうした例の一つであろう。こうした発明、工夫に資本主義のフロンティアがある。

金融の世界では、ヘッジファンドがこの例に当てはまる。ヘッジファンドとはそもそも小回りの利く小さな企業で、より手軽に安く資産運用をしたいという投資家、なかでも年金や保険さらには外貨準備の運用会社などの機関投資家のニーズに応えるためにできた。しかし2004年あたりから、ヘッジファンド自身の投資先が飽和状態になる。そこでヘッジファンドに現金供給をしていた投資銀行大手2社(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー)は、証券化により、今まで単独では投資対象とならなかった住宅ローンや売掛債権に対して、ヘッジファンドが投資することを可能とした。

英国で有名なのは、野村證券が扱ったパブのチェーン店の買収と証券化である。ある投資銀行は、ブラジルの一地方にある中小企業の売掛債権を一括証券化するなど、世界中のあらゆる債権をかき集めて投資対象とした。ところが、どこかで本来投資対象として適当でないものまで入り込み、やがて投資対象不足から証券化の二次証券までが投資対象となるようになってしまった。これがサブプライム問題で、投資銀行とヘッジファンドは大きな損を抱えた。

第2四半期の好決算

実は投資銀行の今年第2四半期の業績は史上最高で、V字回復にほぼ近い。自動車、鉄鋼など製造業の生産は回復したとは言え、前年比7~8割で完全回復には程遠いにもかかわらず、投資銀行がV字回復したのはなぜか。ひとつの理由は、投資対象の掘り起こしを行ったからである。災害発生のリスクに対する補償を売る災害(カタストロフィー)債券などがその例である。

しかし、こうした潜在需要の掘り起こしができるのは、一部の限られた投資銀行に限られている。世界中の災害情報をコンピューターに入れて解析するためには、膨大なデータ収集のための投資が必要になるが、大きな事前投資になるので、どこでもできる商品ではない。

V字回復の今ひとつの理由は、かつてヘッジファンドとの取引の8割を有していたゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーがヘッジファンドから新商品へシフトし、シェアが5割程に落ちたために空いたシェアに対して、ヘッジファンドとの取引をここぞとばかりに伸ばした投資銀行がいくつかあるからだ。サブプライム問題以前、世界の投資銀行は15社程で競争していたが、今では破綻や合併で8~10つほどに集約されており、寡占化が進んでいる。


投資銀行の大手2社であるゴールドマン・
サックス(左写真)とモルガン・スタン
レー(同右)のビル
金融の信頼回復のために

しかし、これではまた同じように、ヘッジファンドへの流動性の無理な供給と投資先の開拓のための証券化、そしてバブルとその崩壊に再度なりかねない、と考える。もちろん、当局サイドも自己資本比率の質や量の規制強化、市場性のない金融商品の情報開示の拡大、報酬制度の見直しなど、チェックを厳格化していこうとしているが、いたちごっこの感は否めない。

銀行にせよ、投資銀行にせよ、金融機関は「人々が欲求を自覚しない場合、企業側が新商品、サービスを作り上げてニーズ自身を掘り起こせる」ように設備や運転資金を供給して、中長期で経済に貢献することがその使命だったはずである。優秀な人材を集めている投資銀行が、シェアの拡大のみを理由としたV字回復ではお寒い。企業自身に対する設備投資の行く末を考えることこそが、金融の信頼回復のために不可欠と思う。


(2009年8月4日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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