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Sat, 23 November 2024

第11回 ドル暴落リスク - 為替レートの決まり方

ドルが暴落すれば

貿易収支災害にあわれた方たちには冷たい言い方であるが、ハリケーン「カトリーナ」は、良くも悪くも米国の現在を見せてくれたと思う。そして米国の現在のあり方は、世界の人々の生活に大きな関係を持っている。軍事力もさることながら、金融市場から見ると結局、米国経済、ドルの動きで大半の事象が説明できることが多い。今回は、金融面からみると世界中で一蓮托生となる国が増えているということを書きたい。ここ2〜3年、金融、為替市場での最大のテーマは、ドル暴落のリスクである。暴落というのは、例えば、数日のうちに50%以上の下落があることで、1ドル60円、1ドル1ユーロ以下まで下がることになる。そうなるとどうなるか。通貨の中でもドルは特別である。実際の貿易取引の支払いはほとんどドルでなされており、唯一世界中で通用する基軸通貨である。このため、各国の投資家、銀行は大量のドルを持っているが、暴落により大きな損失を被ることになる。そうすると倒産を避けるために株式など他の資産を売ることになり、世界の株式市場が暴落する。すると株を持っている投資家もまた他の資産を売ることになる。売る資産がない企業や人は倒産するしかない。米国経済の破綻は、そこに製品を輸出している日本や中国の企業に大きな損をもたらす。そして何より怖いのは、相対的に買われる金とユーロに対し基軸通貨ドルの値段がわからなくなることで、それによりモノの値段がわからなくなり貿易量自体が急激に縮小する恐れがあることである。ブロック経済化が横行し、世界同時不況をもたらし、死人も出る。1930年のウォール街での株価暴落が、ドイツや日本での不況を呼び、ファシズムを生んだ。これが第二次大戦に至った道である。今回は、ドルの将来について2つの説を紹介したい。

ドル暴落説

ドルが暴落するリスクがあるという考え方の根拠は、米国の貿易赤字がもはや継続不可能なレベルに達しているという考え方である。米国の貿易赤字の大きさは、現在約7000億ドル(80兆円弱)で、GDP対比では建国当初以降最大となっている(グラフ)。その頃新興国米国は国債をロンドン市場で売るのに四苦八苦していた(日露戦争の際の日本も同じ)。赤字自体は強制されたものではなく米国民の消費選択や政権選択の結果であり、善し悪しの問題はない。問題は、これが続くかどうかということである。赤字を出すということは受け取りより支払いが多いということであり、短期的には借金が必要になる。その約2割を日本が、15%をアジア諸国が、中国や産油国が4割を貸付けている。米国はそれ以上に借金をし、中国や途上国に投資をしている。金貸しは、稼ぎよりも借金が多い人には、普通は金は貸さない。さすがにこのあたりで何とかしないと、というのが、ここ3年ほどのドルのジリ安である。暴落説は、今後米国の住宅バブルが破裂するなどなんらかのきっかけにより、米国の消費者が借金できなくなり、さらにそれが米国の税収減につながり、財政赤字が増すことを懸念する。そう予想すると大量のドル売りが出る。期待と予想で動く為替相場がこれに拍車をかける。これが米国の中央銀行であるFRBの最大の心配事と言われている。

ソフトランディング説

これは米国経済社会の底力、また金融市場のショック吸収機能や政策当局の臨機の舵取りに期待する説である。一般的に取引量が多い商品の価格は、多様多数の参加者がいるため急激には変動しにくい。米国については悲観的な見方もあれば楽観的な見方もある。これらの見方の平均をとってドル相場は山谷あれど、なだらかにドル安傾向になると考える。巨大なドル債券市場の存在、外国によるファイナンス、米国の競争力の強さ、ひいては民主主義の健全性、軍事力の図抜けた強さなどを根拠に、市場は貿易赤字がゆっくり縮小するのを待つ余裕があるとの立場である。なだらかな長期金利の上昇や各国経済の対米輸出依存を低下させる努力がなされればこうした可能性もある。ただし、昨今の金融市場をみているとひとつのニュースで相場が大きく一方向に振れるなど、金融市場が問題を増幅するように機能しうることを忘れてはなるまい。

正解と対策


「カトリーナ」は米国の光と影を
浮き彫りにした

実体経済の変動が暴落を起こすのか、米国は底力があるのか?金融市場が吸収してクッションになるのか、クッションになりきれず増幅器になるのか? いずれもどちらが正しいのかは、先のことだからわからない。この点、東京での地震の可能性の議論と似ている。いつか必ず起こるが、いつかはわからない。そうだとすると正解は、いつか起こるかもしれないので備えをするということである。こうした見方によれば、米国人はもっと借金をせずに貯蓄をすべきだということになるし、ブッシュ大統領はイラクなどで財政赤字をこれ以上拡大すべきでなく、増税を行い財政を緊縮すべきだということになる。また、米国の中央銀行であるFRBは、危機時に金利を下げられるように今のうちに金利をできるだけ上げておくべきだという主張になる。現にFRBは金利を着実に上げている。ただし、ソフトランディング説の根拠は金融市場の懐の深さであり、それはこれまでの 金融緩和に支えられてきた面があることから、金利、特に長期金利の上昇は、将来の金利引下げ余地というショックに対する緩衝材を作る効果があるものの、金融市場での流動性を絞り、市場の懐を浅くすることにもなる両刃の剣である。一方、ブッシュ大統領はハリケーン「カトリーナ」 による災害復旧に多額の財政支出を余儀なくされるであろう。国民の批判の目をそらすためにばら撒き支出をするリスクもある。最悪「カトリーナ」は米国の光と影を浮き彫りにした は国民の目をそらすための北朝鮮やイランへの介入による財政赤字拡大リスクが現実になることである。これらの最悪シナリオを上書きできるだけの米国民の働き、ITの次のバイオなどでの躍進が続けば問題は生じない。「カトリーナ」のダメージが露見させた貧富の差という米国の弱さと復旧における団結、アメリカンスピリッツの強さ、どちらが本物か。パクスアメリカーナの終わりは始まっていると僕は感じている。政治経済金融の絡み合う非常におもしろい問題であるが、世界の大部分の人口にとっては他人事ではない。確かなことは、この問題が、経済の底流にうねっており、いずれ個々人の人生を翻弄するに違いないということである。

(2005年10月3日)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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