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Sat, 23 November 2024

第16回 寒い冬とガス代金に思う

今後のエネルギー問題の重要性

ビジネスでも、政治でも、無論個人の暮らしでも、ある程度先を読むことが重要である。今は大きな問題でなくても、また到底無理と思われても、10年単位では世の中は移ろうからである。筆者が今最も注目する分野として、食糧とエネルギーがある。これらを日本は自給できない。人口がこのままなら、貿易しなければ生きていけない。米国も欧州も基本的には域内で自給できる。原油価格の上昇に伴う英国でのガス代金の値上がり、エネルギー省が発表した今冬の停電対応、とエネルギー問題はすでに身辺まで影響を及ぼしてきている。

ブレア首相が先月、原発設置再開を方向づける講演を行なった。風力や太陽光発電などをバックアップする一方、原子力発電に消極的な態度を取った2003年の方針から、大きな転換である。

理由として挙げられているのは、

①中国、インドなどの需要増大を背景とする原油価格の高止まり、
②北海油田生産がピークアウトし、原油の純輸入国となった英国が、ロシアと北アフリカに依存し続けることの安全保障上のリスク(原発に必要なウランは英連邦のカナダとオーストラリアから買える一方、ロシアは19世紀以来ずっと英国の仮想敵である)、
③地球温暖化に対して二酸化炭素排出抑制の必要性、の3点である。

中国が北アフリカや中東での新規の油井採掘権を通常の2~3割増で落札するなど、国家ぐるみで国内で不足するエネルギーの確保に躍起になっていることはよく知られている。中国は、日本向けを主眼としていたサハリン沖のガス田開発にも着目している。ロシアとの蜜月関係を利用して、中国向けパイプライン敷設に向けて巻き返しを図る一方、尖閣諸島近海でのガス田確保にも熱心である。中国、インドにおける需要は今後増えることはあっても減りそうもなく、このままいけば、20年程度で世界は深刻なエネルギー不足になる恐れがあるという。インフレ懸念を通り越し、安全保障問題に繋がるであろう。第二次大戦の原因の一つには、日本が米英の石油禁輸に対抗して、生命線を確保する必要があったという面がある。このためどのようにエネルギーを確保するかは、戦後60年を経て、再び国家戦略の問題となってきた。英国とリビアのカダフィ大佐との和解もそういう文脈で理解すべきであろう。

代替エネルギーの可能性

もともとエネルギー問題は、対策を立ててその果実を得るには長い期間を要するにもかかわらず、ブレア首相はたった2年で方針転換した。原発は長く残り、その廃棄には非常にコストがかかる。特に生成するプルトニウムの毒性を再処理では完全には消し切らないまま、埋めなければならないという問題がある。仮に稼動中に事故が起これば、チェルノブイリと同じ問題に発展する。風力発電や太陽光発電を真剣に再検討する時期ではないか。もちろんブレア演説でも、こうした代替エネルギーのみでは不十分なので、原発も併用するとしているのであって、代替エネルギーを止めると言っているわけではない。

現在、シテイではこうした会社への投資セミナー、説明会が時折みられる。米国でも同様と聞いている。この背景には、エネルギーの電力への変換過程での効率性が上がってきたこと、原油などの既存エネルギー価格の上昇がある。しかし、こうした価格メカニズムのみによる代替エネルギー開発には限界がある。現に80、90年代の原油価格低迷により、こうした代替エネルギー開発は下火になってしまっていた。最近、日本で世界での鉱区入札に耐えうる規模を確保するために、帝国石油と石油公団系の国際石油開発が政府の肝入りで経営統合することが発表された。中国やインドの資源囲い込みに対抗するためにはこうしたことも必要であろう。しかし、長い目でみた戦略も同時に進んでいるのだろうか。ソーラー関係の技術を企業や国民に普及することをもっと考えるべきときではないか。石油会社は、過去の原油暴落の再来を恐れて、石油精製や油井開発に十分な投資をしていないし、今後も大規模な投資は現状では計画されていない。原油価格の現状は彼らにとって都合が良いということであろう。今月、ブラウン蔵相は、石油会社の棚ぼたの増収に対して税金をかけることを予算方針演説で表明した。石油精製や油井開発のための虎の子を奪う以上、税収は相当部分、代替エネルギー関係の開発利用促進に利用されるのではないか。純輸入国に転じたとはいえ、原油の自国消費の90%を国内生産でまかなう英国。それに対して、エネルギー効率が高いとはいえ、自給率が1%にも満たない日本でこそ、代替エネルギーについて長い目で見た議論が安全保障の見地からも極めて重要と考えるが、どうであろうか。

(2005年12月12日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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