世間では、ラジオ番組の収録でおふざけが高じた人気コメディアンと司会者が総スカン状態となっているようです。しかしこのお2人、ひたすら謝るだけであまり芸がない。そこで今回は、英国人がこれまでこうした修羅場において、どのような言い訳を繰り出してきたかを振り返っていただきたいと思います。各界の第一人者たちが残した迷言の数々から、英国流の言い訳術を学び取っていただけたら幸いです。
(すばよしこ)
聞かれた質問には、とりあえず適当に答える
モデルは、歌手のジョージ・マイケル
「処方薬。そして疲れていたから」
解説
2006年2月、自家用車を運転していたマイケル氏は、信号待ちしている最中に運転席で違法薬物を吸入、車内で意識を失った。また同年10月にも同様の理由で車内で倒れているところを通行人に発見され、警察に通報されるという事件が発生。同月に行われた裁判では、所持していた薬物は合法的なものであり、倒れていた理由を「疲れていたから」と説明した。
在英邦人への教訓
このときの裁判で検察側は、「何を摂取していたのか、そしてなぜ倒れていたのか」を聞くことによって、マイケル氏による違法薬物の所持を立証しようとしていました。それに対するマイケル氏の答えは、「処方薬であり、疲れていたから」。口八丁手八丁のイメージがある芸能人ですが、意外と言い訳するのが下手なようです。違法薬物を吸引して卒倒した直後に病院へと搬送されたマイケル氏は、そこで薬物の中毒症状が出ていると診断されているのですから、ただ単に「疲れていた」だけで済む問題ではないことは明らか。ただこの回答で一つ見習うべきことは、不器用ながら質問には答えようとしていることですね。その誠意だけは、評価してあげましょう。
「眠かったから」
エイミー・ワインハウス(歌手)
かねてから薬物中毒の疑いが持たれ、その奇行が注目を集めていた歌手のエイミー・ワインハウスが、下着姿で一般道を歩いていたことに対して弁解。なぜ眠いと下着姿で路上を歩くのか、という理由についてのはっきりとした説明はなかった模様です。
「ブリーチ剤を吸ってしまったから」
ピーチズ・ゲドルフ(タレント)
2006年に薬物吸引で卒倒した挙句に病院へと運ばれた彼女は、その理由を「自身の髪を脱色するために用意したブリーチ剤を吸い込んでしまったから」と説明。その奇妙な理屈が、薬物中毒を疑われる理由となっていることに彼女はまだ気付かなかったのでしょう。
「抗生剤を飲んでいたから」
カプリス(モデル)
英国在住の米国人モデル、カプリスが、検問にて飲酒運転が発覚した後に、裁判所で行った発言。抗生剤と飲酒検問の関係性の説明はなし。ボキャブラリーの貧困さが原因なのか、芸能人の言い訳術には、首をかしげてしまうようなものが多く見られます。
単純明快な口実は、小粋な言い回しで煙に巻く
モデルはサッカー選手のジョー・コール
解説
2006年に開催されたサッカーのW杯ドイツ大会において、イングランド代表は格下と見られていたパラグアイ相手に苦戦。試合後の記者会見でその不甲斐ない試合内容の原因として30度の高気温を挙げたのが、同代表の中盤を務めるジョー・コール選手だった。この試合は何とか1-0で勝利を収めたものの、同大会におけるイングランドは準々決勝で敗退した。
在英邦人への教訓
小難しい言い回しは、英国人が最も得意とする話法です。例えば、上のコメントにある「状況」って具体的には一体何を意味すると思いますか。この後で「気温が下がるといいんだけど」などと言っているので、「暑さ」のことを指していると考えていいでしょう。たださすがに、「暑過ぎて動けなかった」ではあまりに言い訳じみて聞こえてしまうので、「状況」という、より抽象的な言葉で代用したのですね。ただ単に物を失くしてしまっただけなのに、「Misplaced(置き間違えた)」と言って誤魔化すのも同様です。ちなみにイングランド代表が、「状況」が変わりナイターの試合が主となった2008年のサッカー欧州選手権においてもまさかの予選敗退を喫したのは、残念な限りです。
「ピッチが荒れていた」
アレックス・ファーガソン(サッカー監督)
名門マンチェスター・ユナイテッドを率いるファーガソン監督が、2001年のFAカップ敗戦後に残したコメント。ジョー・コール選手の場合と同じく、悪いグラウンド状態で戦わなくてはいけないのは、対戦相手も同じはず。
「家の引越しで忙しくて、忘れていた」
リオ・ファーディナンド(サッカー選手)
監督が監督なら、選手も選手。マンチェスター・ユナイテッド所属のファーディナンド選手は、2003年にドーピング検査を受けるのを忘れてしまい、その理由として「家の引越しで忙しかった」と述べました。これで彼は8カ月間の出場停止に。
「エアコンの風で軌道がずれた」
マービン・キング(ダーツ選手)
英国で5本の指に入るほどの実力を持つダーツ選手が、2003年に行われた大会の準決勝に敗退した原因を述べたときに出た、とっさの一言。彼の対戦相手はより重く、そして平らなダーツを使用していたため、エアコンの風の影響を受けなかったとも。
深刻な悩みを打ち明けて同情を買う
モデルは、自由民主党のマーク・オートゥン議員
「ハゲに悩んでいたから」
解説
2006年、自由民主党の内務省スポークスマン(当時)を務めていたマーク・オートゥン議員が党首選に出馬した際に、同議員が過去に23歳の男娼を買っていたとのスキャンダルが発覚。これにより、同議員は党首選への出馬を撤回し、さらに同ポスト辞任。後にこの一件について「サンデー・タイムズ」紙上に約 3700語に及ぶ謝罪文を掲載した。
在英邦人への教訓
言い訳や釈明において、最も頻繁に使われるテクニックが「泣き落とし」。家庭を持つ自民党の党首候補が、隠れて若い男娼を囲っているとのニュースは当時の一大スキャンダルとなりました。「妻子がいる身でなぜ」との問いに対するオートゥン議員の釈明は「ハゲに悩んでいたから」。どれだけテレビを通して熱く政策を語っても、彼の髪の薄さばかりに注目する一般市民に失望し、やがて男娼に癒しを求めるようになったとのことです。ちなみにこの「私じゃなくて、環境が悪いんだ」という論法は、世界各国で利用されているのではないでしょうか。社会事件を起こした犯罪者などがよく使っているのを鑑みると、それなりに説得力があるのでしょう。
「私は、スーパーウーマンではない」
シェリー・ブレア(元首相夫人)
トニー・ブレア首相(当時)の妻であるシェリー夫人が2002年、過去に詐欺で逮捕歴のあるオーストラリア人男性に、息子のフラット探しを依頼していたことが発覚。その釈明会見において放ったこの一言こそ、泣き落としの真髄です。
「ビッグ・ブラザーの視聴率が良いから」
ジョージ・ギャロウェイ(リスペクト党議員)
本来の実務を放り投げて、チャンネル4の実験ドキュメンタリー番組「ビッグ・ブラザー」に数週間にわたって出演していた同議員。「国会議員としての義務を放棄してまでなぜテレビ出演するのか」との声に対する反論は、スポンサー企業も顔負けの視聴率主義に支えられていました。
「妻が髪が乱れるのを嫌がるから」
ジョン・プレスコット(元労働党議員)
ホテルから党大会が開催される会場まで、わずか約250メートルの距離を、リムジンを利用して移動することについて非難された際の説明。ちなみにプレスコット夫人の前職は、美容師。しかしなぜタクシーじゃなくて、リムジンなのでしょうか。
新しい概念を主張して説得する
モデルは、労働組合RMTボブ・クロウ書記長
to repair his ankle.”
「スポーツ・セラピーが必要だったから」
解説
捻挫を理由として数カ月にわたって病欠していた鉄道職員が、その休暇中に室内スポーツ、スカッシュをプレーしていたことが2003年に発覚。この知らせを受けて、ロンドン地下鉄はこの職員の解雇を決定した。しかし、労働組合RMTはスカッシュをプレーしていたのは治療のためとして同決定に抗議し、騒動はやがて24時間のストライキにまで発展した。
在英邦人への教訓
捻挫を理由に数カ月も欠勤していて、しかもその間スカッシュしていたことがばれてしまった、という状況は、正直言ってなんとも苦しい。そんな土俵際で、どううっちゃりを打つか、という方法を示した好例です。そうです、「スポーツ・セラピー」なる新しい概念を持ち出して反論を展開すればいいのです。科学や医療などに関連した、学術的な響きを持つ言葉だと、説得力が増します。もし相手が困惑したような表情を浮かべたら、「え?スポーツ・セラピーを知らないの?」と逆に問い返してみましょう。鉄道業界の労働組合RMTのボブ・クロウ書記長のように、生まれつき顔に凄みがある人がこのような因縁をつけると、さらに効果があることも付け加えておきます。
「露が落ちたため」
過去の記録を見ると、夏には高温(heat)、秋には落ち葉 (leaves on the track)、冬には雪(wrong kind of snow)、そして春には露(dew)といった自然現象が電車の遅れの理由となっているようです。結局、列車は四季を通じて遅れていることになります。
「運転手の背が大き過ぎたから」
2005年9月にグラスゴー中央駅で起きた遅延の理由。そのときの電車の運転手を務めたのは、約195センチの身長を誇る男性でした。彼は運転席の椅子の高さが調整できなかったために、「前方の視界を確保できない」として運行を突然キャンセルしたそうです。
「カラスが低空飛行をしているから」
ロンドン郊外では狐や豚、牛などの動物が線路近くに出没したために電車が遅れる、というトラブルが現在でも頻繁に起きているようです。1999年には「カラスの低空飛行」によって電車に遅れが出た、という奇妙な事例が報告されています。
TVライセンス不払いの理由
「テレビを持っていない」
衛星パラボラ・アンテナが取り付けられた家の住人までもが使う、最もポピュラーな言い訳なのだとか。
「この家の住人ではない」
パジャマを着用したままでこのセリフを口にする者も多いという。
「妻が払っていると思っていた」
日本の中年男性が好んで使うこの常套句は、 英国人男性の間でも頻繁に利用されている。