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多文化、宗教を考慮したNHS病院の入院食
この記事の読者の方は英国在住の方、もしくは今後英国に住む予定のある方が多いと思います。ただし在英と一口で言っても、都市部と地方では同じ国と思えないくらい様子が違いますね。ほかの欧米諸国と同様に、英国でも都市部を中心に多国籍や多人種化は進む一方です。NHSではこうした多様なバックグラウンドを持つ患者さんの文化、宗教、信条などを尊重して、それらのニーズに応じた医療を提供する方針を掲げています。
例えば、病院内にお祈り用の部屋を設けて入院中の患者さんに利用してもらったり、ベジタリアンや宗教の関係でカプセル薬(ゼラチン原料)が服用できない患者さんには、シロップや錠剤といったカプセル以外の薬に変えて処方したりします。今回はこうした異なるバックグラウンドを持つ患者さんのニーズと入院中の食事について書いてみたいと思います。
皆さんはNHSの病院に入院した経験はありますか?そこで必ず経験するのが病院で出される食事です。多くのNHS病院では、昼・夕食ともに2コース、3コースの食事を比較的豊富な選択肢で日替わりで用意しています。選択の種類は完全に病院によりますが、私が今まで実習や仕事で回ってきた病院では夜のメインは3、4つの選択肢がありました。さらにサンドイッチなどの軽食も用意されています。この中には必ずベジタリアン対応の食事が用意されています。さらにハラル、ヒンドゥー、コーシャなど、文化や宗教に配慮した食事を個別で提供する病院もあります。
私が今まで勤務してきた病院も、ほとんどがこうした配慮をしていました。看護学生時代、英国に移民として来る割合の多い国や文化の食生活の研修を受けたことがありますが、その中には中国の食事も含まれていました。実際に中華料理を個別提供する病院があるかは不明ですが、「知識としては知っておきましょう」というスタンスです。
ここで入院食のオーダーについてさらっと説明をしてみます。朝食はシリアルやトーストなど簡単なもので、患者さんにオーダーをとりながら配膳します。しかし昼食、夕食ともに事前にオーダーをとって院内の食事部に提出をしなければいけません。コロナ以前は多くの病院で患者さんに日替わりメニューの紙とペンを配りメニューを選んでもらい、それをスタッフが配膳部まで届けていました。今はどこもオンライン注文になり、スタッフが口頭で患者さん一人ひとりにメニューを説明してパソコンに注文を入力していきます。機内食のような「お魚とお肉、どちらにしますか?」などの2者択一ではないため、スターター、メイン、デザートそれぞれ複数の選択肢をスタッフから口頭で言われ、その場で選択をしなければならない患者さんも大変ではあると思います。とはいえ、選択肢をもらって自分で選ぶスタイルは、年齢や言語、文化の違いを問わず、人間の権利であるのだなと実感します。
もし皆さんが入院することがあり、聞きなれない食事名を立て続けに読み上げられて焦ることがあっても、全く問題ありません。英国人ネイティブの患者さんでも聞き返していますし、自分が納得するものを選んで食べてください!それをNHS側が望んでいるのですから。