ウィンブルドン方式の結果
11月6日に英国の中央銀行であるイングランド銀行は政策金利を1.5%下げ、3%とした。ここ数週間で年初来のインフレの懸念が大きく弱まった一方、実体経済の悪化と銀行貸出の縮小(信用収縮)により、インフレ率が大きく目標(0~2%)を下回るダウンサイド・リスクが発生していることをその理由として述べている。つまり、インフレと不況が同時に起こるスタグフレーションから、デフレと不況の対処へと懸念が移ったことを示している。
こうした経済状況の急激な変化は、第一に英国経済がウィンブルドン方式において「メガ金融機関や外資サービス業にビジネスの場を提供することでその手数料を得る」という構造を土台としているため、金融動向に振られやすいこと、そして第二にその金融が実際に大きく振れたことの2点の組み合わせから生じている。金融市場の変化は、実体経済よりも非常に早いスピードで動くことが特徴なので、この変化はインフレ懸念で抑制されつつあった国民の消費や、ピークアウト感が出ていた住宅投資をソフト・ランディングではなく、ハード・クラッシュに導きつつあるということを意味する。
(既に起こっていることも多そうだ)
交際費・寄付などの削減、給与抑制またはカット、臨時雇用者などの解雇、解雇促進、賃金の安い外国人労働力の活用、従業員のストライキ、プロジェクトなど新規事業凍結、借金返済の延期(手形のサイト延長)、破産(再生)
<家計>
旅行・外食などの支出抑制、買い物抑制、不動産売却、破産、ホームレス化、若年失業、移民排斥、デモ、精神的な病気の増加
<政府>
移民制限、財政支出または減税、金利引下げ、雇用訓練拡大、生活保護増額、財政赤字拡大、将来の増税またはインフレ・リスク、外国への投資要請(先日ブラウン首相がサウジアラビアに行ったのもその一環か)、EUとの協調色
不況による変化
それでは、今後2年間の英国経済をどうみておくべきか。上表の通り、需要減退を予想すると企業はリスクを取らず、コスト削減を図る。給料が上がらないとみると消費者は家計を節約する。そうした総需要の減少に対して政府は財政を出動し、また中央銀行は金利を下げ何とかそうした減少をマイルドなものに留めようとする。
一方で、直接損を被った金融機関は資本を減らしているので、政府の公的資本を入れてもらっても、自己資本比率を維持しようと思えば、貸出は慎重にならざるを得ない。よって資金を借りる側である企業もリスクを取りにくくなるという点が重しになり、景気はすぐには回復しないということになる。
悲観する必要なし
だからといって今後の英国での生活を必ずしも悲観する必要はない。上表のような事態が見越せるのなら、そのような状況をチャンスにすることも可能だ。ヒトの点について言えば、企業は優秀な労働者を安く雇えるチャンスだし、リダンダンシー(仕事がなくなったことによる解雇)に遭った労働者は自らの人生展開を改めて考えることもできよう。マクロ経済的には、こうした不況期において設備や労働などの資源をより最適な形で再配分することこそ、次なる成長の源泉と言える。倒産法制やM & Aが鍵になるのはそのためである。
そしてサッチャー政権末期から続いた英国経済の好調の終焉と到来した不況の今後のなりゆきこそ、サッチャー政権とそれを引き継いだブレア政権、さらにはブラウン現政権に対する歴史的な評価が定めてゆくことになる。好不況を1サイクル経た結果として国民生活が豊かになったのかどうか、これが判断基準である。
どこかで見たような不況が今後どういう形をとってくるのかを見守りながら、2000年代の不況とそれへの対応において、資源再配分を円滑に行えるのかどうかに注目したい。この処置が出来なければ、人類はいつまでたっても賢くならないということであろう。諸行無常という言葉を噛みしめる日々が続く。
(2008年11月9日脱稿)
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