ジョンソン政権発足、もし総選挙があれば、野党はどこまで勝てるのか - 労働党は反ユダヤ主義払拭に苦労
7月24日、保守党の新党首ボリス・ジョンソン氏が英国の首相に就任しました。前日に発表された党首選の結果によると、ジョンソン氏は保守党員がライバル候補ジェレミー・ハント外相に投じた4万6656票を大きくしのぐ9万2153票を獲得しました。これは得票数全体では、66.4%に相当するそうです。
新政権の最大の課題は行き詰まり状態のブレグジット、つまり英国の欧州連合(EU)からの離脱の実現です。皆さんは、離脱予定日の10月31日までに下院が離脱協定案を可決できると思われますか?
もし現行の下院構成で可決が困難となった場合、ジョンソン政権は総選挙に打って出る可能性があります。では対抗する野党勢力の状況はどうなっているのでしょう。
下院のウェブサイトによると、定数650の中で最大の議席数を持つのは与党・保守党で311議席です。ただし、過半数には達していません。次が最大野党の労働党で247、これにスコットランド国民党(SNP)が35、無所属16、自由民主党(Lib Dem)12、民主統一党(DUP)10、シン・フェイン党7、チェンジ党5、プライド・カムリ党4、グリーン党1などが続きます。
圧倒的な議席数を持つのは、保守党と労働党ですよね。英国では、2つの主要政党が交互に政権を担当する二大政党制が長く続いてきました。下院で最大議席数を持つ政党が発足させる政権は「女王様の政府(Her Majesty’s Government)」になり、野党は「女王様の野党(Her Majesty’s Opposition)」と位置付けられます。政府の政策やその仕事ぶりに異を唱える(「oppose」)ことがその役目です。政府は野党側の詮索に対して説明・反論し、最善の道が選択されるようにしていきます。
複数の世論調査の結果を集約する「Britain Elects」によると、「総選挙でどの政党に投票するか」という問いに25%が労働党と答えたそうです。保守党(23%)、ブレグジット党(21%)、Lib Dem(18%)、グリーン党(7%)がこれに続きました(7月18日時点)。他の世論調査では保守党が数%上回る場合もありますが、二大政党と新興のブレグジット党が拮抗しています。
4月に正式結党したブレグジット党は「ブレグジットを実現する」を存在意義とし、5月の欧州議会選挙では英国に割り当てられた議席数73のうち最大数となる29議席を獲得しています。当初の離脱予定日(今年3月29日)を過ぎてもなかなか離脱が実現しないことへの国民のいらだちを示した結果と言えるでしょう。この欧州議会選挙ではLib Demも躍進しました。ブレグジット党に次ぐ16議席を手に入れたのです。親欧州のLib DemはEU残留を支持してきました。3年前のEU離脱・残留をめぐる国民投票では離脱派が僅差で勝ちましたが、国内には残留支持者が根強く存在しています。この層の人々の支持がLib Demの伸長に寄与したのでしょう。
もし調査結果がそのまま総選挙に反映されれば、ジェレミー・コービン氏が率いる労働党が政権を取る可能性があります。ただ気に掛かるのは、混迷を見せるその内情です。党内左派系となるコービン氏は、2015年9月、若者を中心とした労働党員らの圧倒的支持を受けて党首に選ばれました。でも、中道派の議員らから反発を受け、党内は分裂気味です。今年5月には8人の議員が離党しています。ブレグジットの方向性についても、2017年の総選挙には「離脱実現」を掲げたのに、議員の間では残留支持が多いと言われています。最近は「反ユダヤ主義問題」の対応に追われています。「ユダヤ人党員に対するハラスメントや差別に十分に対応していない」と批判されているのです。「いざ」というときのために、最大野党労働党にはなんとか諸問題を解決し、一丸となって新政権の一挙一動を精査してもらいたいものですね。