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Thu, 18 April 2024

イギリス連立政権の移民政策について

労働ビザの上限設定など改革進む
連立政権の移民政策について

英国において、「移民」は常に人々の大きな関心事である。英国に多様な文化、技術・知識をもたらすとの利点が語られる一方、「公共サービスへの負担となる」「英国人の職を奪う」など、移民に対する批判的な論調も存在する。今回は、連立政権が昨年から進めている移民制限策について取り上げる。

英国への移民流入数の変遷

英国への移民流入数の変遷

近年のカテゴリー別ビザ発給数

  2007年 2008年 2009年
1階層(Tier1)高度技能労働者
本人 10,055 15,515 18,780
配偶者・子供 6,285 8,200 15,010
2階層(Tier2)
英国内の雇用主から仕事のオファーを受けている技能労働者
本人 68,355 59,115 36,490
配偶者・子供 30,150 22,055 26,985

4階層(Tier4)学生
本人 229,415 250,950 311,135
配偶者・子供 19,295 24,200 30,170

Source: Home Affairs Committee

「移民流入数を年間数万人に削減」と公約

現在、自由民主党と共に連立政権を組んでいる保守党は、伝統的に移民制限に積極的な政党であり、野党時代は、労働党政権の移民政策を「リベラル過ぎる」として批判していた。同党は、昨年5月の総選挙マニフェストでも、移民の流入数を、「現在の年間数十万人規模から年間数万人程度に減らす」ことを公約として掲げ、これが、多くの得票につながったと言われている。総選挙後に発表された連立政権の政策プログラム文書には、公約を実行すべく、「欧州経済領域(EEA)の加盟国以外の国から来る移民の数に上限 を設ける」との方針が示されていた。

労働ビザは年間2万件強で上限

この方針に沿って、政府は早くも昨年11月下旬、前労働党政権が導入した移民規制制度である「ポイント制度」における「1階層(Tier 1)」及び「2階層(Tier 2)」の労働ビザ発給数を、2011年4月より、年間計2万1700件に制限することを明らかにした。内訳は、「1階層」が年間1000人、「2階層」が同2万700人である。「1階層」については、今年4月から対象者が厳しく制限され、ビザ発給数が従来より大幅に減ることになる(「関連キーワード」参照)。

ただし、産業界の要請に応え、複数の国に事業所を置く企業が、他国から英国へ従業員を派遣する場合の労働ビザ発給は、上限の対象外とされた(ただし、英国での勤務が1年以上の場合は、年間報酬4万ポンド(約520万円)を超えることがビザ発給の条件となっている)。なお、2009年における「1階層」及び「2階層」の労働ビザ発給数は、計5万5000件であった(ただしこの数字は、同企業内での他国から英国への従業員派遣のために発給された労働ビザを含む)。

学生ビザの厳格化にも着手

テリーザ・メイ内相は、下院で労働ビザ発給数の上限を明らかにした際、移民制限の取り組みは、労働ビザのみならず、学生ビザ及び家族ビザの制限によっても実施すると述べた。その言葉を裏付けるように、内務省は早速昨年12月上旬、学生ビザの発給条件厳格化に向けて、一般市民などを対象に意見集約作業を行うための協議文書を発表した。同文書に盛り込まれている政府の提案には、「学位レベル以下のコースを提供する学校で、海外からの成人学生を受け入れることができる学校は、『信頼度の高い学生ビザ・スポンサー(Highly Trusted Sponsors)』として国から認定された学校のみとする」「学生ビザ取得に必要な英語力の能力要件を引き上げる」「外国人学生の英国内での就労の権利を更に限定する」などが含まれている。意見集約作業は今年1月末まで続けられる予定である。

近年の統計を見ると、実は労働ビザ発行数は年々減少しているが、学生ビザの発給数は大幅に増えていることが分かる。デミアン・グリーン移民担当相は、同協議文書の発表に当たり、学業ではなく就労を目的とした「偽学生」の入国を阻止する必要性を強調していた。英国在住の多くの日本人にとって大きな関心事であると思われるビザ制度。今年も連立政権によるハイペースな改革の実施が予測され、まさに目が離せない状況である。

Points-based immigration system

欧州経済領域(EEA)の加盟国以外から来る移民の規制システム。前労働党政権が導入。移民 を「Tier 1 高度技能労働者」「Tier 4 学生」などの5つのカテゴリーに分け、年齢、過去の収入、学歴などに応じて各カテゴリーに必要なポイント数を獲得できればビザを取得できる。政府は昨年、これまでの「Tier 1 」の制度では、十分に高度な技能を持つ労働者が獲得できなかったとして、来年4月より、「Tier 1」のビザ発給者を、起業家、投資家及び「非凡な才能を持った人」にのみ制限するとの方針を明らかにしている。

(猫山はるこ)

 
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