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Thu, 28 March 2024

イギリス新連立政権と選挙制度改革

英国の歴史に残る政治改革となるか
新連立政権と選挙制度改革

5月に発足した新連立政権は、政治改革の一環として選挙制度の見直しを掲げている。英国議会の歴史上、長年の宿敵同士であった「ホイッグ党派(自由民主党)」と「トーリー党(保守党)」が、今般の政権樹立を機に、連立与党として英国に真の政治改革を導けるか否かが注視されている。


2010年英国総選挙の結果

獲得議席の分布図

獲得議席の分布図

各党の獲得議席数

各党の獲得議席数


異なる選挙制度が実施された場合の予想結果

1単記移譲式投票
Single Transferable Vote (STV)

単記移譲式投票 投票用紙に各選挙区の候補者名が明記されており、有権者は候補者の名前を順位付けする。単記移譲式とは、一般的に「比例代表単記移譲式」のこと。開票に当たり、落選した候補者への票は有権者が表明した選好順位によって残りの候補者に移譲されるため、死票を最小限化する方法とされる。

2代替投票制
Alternative Vote (AV)

Alternative Vote 単記移譲式投票と同様、有権者が候補者の名前に順位付けをして投票する制度。開票に当たり、いずれかの候補者が過半数を占めるまで、当該候補者に対する投票の第2順位以下の票を加算する。その際、最も得票数の少ない候補者は加算の対象から除かれる。

3代替投票制プラス
Alternative Vote plus (AV+)

Alternative Vote plus (AV+)代替投票制と同様の開票システムに加えて、地域レベルで実施される2回目の投票(2回投票制)で、有権者が政党もしくは政党が推薦する候補者を投票する制度。

4比例代表制度
Proportional Representation

Proportional Representation得票率に比例して当選者を決定する制度で、各政党に議席が配分されるため小政党が議席を獲得しやすいとされる。比較的世論を公平に反映できる反面、イデオロギー面等で極端な政党が議席を獲得する可能性があるとされている。


先着順当選制 
First-past-the-post

英国で長年にわたって実施されている選挙制度。相対的最多数を獲得した候補者が、当選する仕組みとなっている。選挙方法は単純で、有権者は投票用紙に記載されている候補者の名前の横に×印をつけるのみ。1832年の第一次選挙法改正で開始されたこの制度は、「多数派支配制度(Majoritarian)」及び「勝者独占制度(Winner takes all)」とも呼ばれる。さらに英国議会では合わせて「小選挙区制」という、各区の議員の定数を1名とする選挙区制度を採用。同制度は多量の死票を生み、多数党に有利になるとされている。

自民党の「連立政権と選挙制度改革」

5月19日、クレッグ自由民主党党首は、副首相就任後の初演説で「(今後実施される選挙制度改革は)選挙権が大幅に拡大された1832年の第一次選挙法改正以来、英国の民主主義制度において最大規模の政治改革になるだろう」とし、選挙制度の見直しに対する確固とした姿勢を示した。自民党は、保守党に提示した連立政権樹立の合意における一つの主要条件として、現在の「単純小選挙区制(「小選挙区・先着順当選制(First-past-the-post)」)を廃止し、得票率に合わせて議席を配分するため中小政党にも勝算がある「中選挙区比例代表制」の導入を挙げていた。

第3党である自民党は、次回の総選挙で第1党の座を目指しており、多数党(保守党、労働党)に有利であるとされる「単純小選挙区制」を廃止する等、選挙制度改革を有用することで、単独一党で過半数の投票数を獲得したいものとみられる。

保守党の「選挙制度の見直しと国民投票」

かかる自民党の主張に対し、キャメロン保守党党首は「より死票を減らす方向での小選挙区制の改正」や「選挙制度改正に当たっての国民投票実施」に合意した。単純小選挙区制を保持したい保守党が、自民党に歩み寄りを見せた主な理由として、財政再建への増税等、国民に負担がかかる歳出抑制の責任を他党と共有しようとする思惑や、国民の間で2大政党制への不満が強まりつつある中、有権者に選挙制度改正の是非を問う国民選挙の実施は避けられないという認識等があったと考えられる。

その結果、政府は5月20日付で発表されたマニフェスト「The Coalition: Our Programme for Government」の政治改革における一項目において、新政権は具体的な選挙制度改革として代替投票制(AV: Alternative Vote)の導入や、選挙区の再編等に関する国民投票を行うことを公約として組み込んでいる。しかし、国民投票の実施は「実施する見通し」としたのみで、明確な日程の記述がない。こうした具体的な詳細が欠如しているのは、いまだ両政党間で妥結に至っていない証左とも解し得る。

選挙制度と政治改革

そもそも、今般の保守・自民連立政権の発足は、本来の各政党が主張する政策・イデオロギーの差異が薄れてきたことを示すものでもあり、また、保守党左派のキャメロン氏と自民党右派のクレッグ氏両者の政策路線は重なるところも少なくないことから、当面、新政権は英国議会本来の「強い政府」を保持する公算が大きい。しかし、中・長期的には、政策等における双方の違いにより連立政権の安定性が脅かされる可能性もある。

また、英国議会制度を見習い、小選挙区・比例代表並立制度を採用した日本は、昨年8月に行われた総選挙で民主党が16年振りに政権交代を実現したが、新政権樹立後8カ月が経過した現在、沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題を巡って社民党が連立政権を離脱、ついには鳩山首相の辞任へと発展した。この事象は、政治の迷走を止めるには選挙制度改革だけでは十分でないことを示していると言えるのかもしれない。英国の新連立政権が二の舞を演じないための真の、政治改革が期待される。

Whigs & Tory

「Whigs(ホイッグ党)」は17世紀の英国で形成された政党で、当時の中産階級を代表し、選挙制度・国会・慈善事業等の改革を目指した。一方、反対政党として英国国教徒や地主階級等により形成された「Tory(トーリー党)」は、英国王室と英国国教会の伝統制度や既存特権の維持等を掲げた。1830年頃、ホイッグ党は「自由党」、トーリー党は「保守党」に各々改名し、両党の2大政権は1922年総選挙で労働党が台頭するまで継続。また、1988年、自由党は労働党から離脱した「社会民主党」と合併し「社会自由民主党」を結成、翌89年に「自由民主党」と改名した。

(吉田智賀子)

 
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