知的財産権(IP)とDEMPE機能について
経済協力開発機構(OECD)の「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトは、IPにどうかかわっていますか。
OECDは2015年10月に「行動8‐10」に関する最終報告書を公表し、2017年7月に移転価格ガイドラインの改訂版を出しました。この文書にはDEMPEの概念、すなわちIPの「開発(Development)、改良(Enhancement)、維持(Maintenance)、保護(Protection) 及び活用(Exploitation)」、が導入されています。これは現行の移転価格の原則を明確にするためと言われますが、実際には、IPから生まれる利益の計上を、あまり活動していないIP所有企業から活動を行っている会社へ移すものというのが大方の見方です。
DEMPEとは何ですか。
DEMPEは、IPから生じる利益を関係企業の間でどのように帰属させるかを明確にするもので、法的所有権のみならず、IPの創出と維持のために、関係企業が何を実施しているかを検討する方法でもあります。
DEMPEは、実際にはどのように適用されるのですか 。
英国の税務当局はOECDの新しい移転価格ガイドラインを取り入れ、DEMPE機能を適用しています。しかし、低税率国でDEMPEが実施されることにより、英国のIPの価値を大きく減らしていることを、税務当局が容認するかが不透明です。今のところは時期尚早ですが、欧州各国はDEMPEを英国と同様な方法で採用しており、日本と米国はより「従来型」の見解を示しているようです。
IPの「開発、改良、維持、保護、および活用」とは何ですか。
①開発とは、IPの商業利用に向けた戦略を含む、IPの創出に関わるあらゆることです。②改良とは、マーケティングや内部システムの向上など、IPの改善を指します。③維持には、顧客の満足度や、品質の維持、顧客との問題の友好的解決、製品に対するフィードバック収集などを徹底することが含まれます。④保護には、IPの確実な登録、ライセンス契約の監視、IPを侵害していると思われる関係者への異議申し立て、侵害を防ぐための弁護士の利用などがあります。⑤活用とは、販売、ブランド使用による利益率の向上、製品使用の推奨など、ブランドから収益を生み出すことです。
ある企業が製品を開発し、それをグループ内のIP保有企業に売却する場合、IPから生じる利益はどうなりますか。
その開発企業が、成功した製品をグループ内のIP保有企業に移転することで支払いを受けるが、成功していない製品については支払いを受けないという場合には、その開発企業が開発リスクを負っていることになります。そのため、成功した製品のIPに関する利益は開発企業に帰属させるべきです。
では実際にはどのようになりますか。
IPを保有する企業が法的所有権の保有以外に行うことはわずかで、特にIPを供与された企業が報酬の支払われないDEMPE業務を実施する場合、IPに対する使用料の発生が認められない可能性があります。 もし低税率国の企業が第三者からIPを買い取り、グループ企業にライセンスを供与すれば、そのグループ企業は使用料に対する課税控除を受けられないということですか?
そうではありません。最初にIPを低税率国の企業が完全に保有すれば、使用料はすべて課税控除されます。その後、DEMPEが営業企業で機能すれば、DEMPEの分析によりIP は営業企業に移り、使用料に対する課税控除は減ります。
アンディー・トール
税務ダイレクター
税務と税務会計コンプライアンス、HMRCへの照会、オーナーの利益抽出と出口戦略、R&D優遇の請求、キャピタル・アローワンスの請求、税務デュー・ディリジェンス、M&Aの税務など幅広い経験を持つ。