FRS102セクション1Aと簡易決算について
多くの英国子会社は昨年から新財務報告基準であるFRS102を適用していると思いますが、これまで小企業向け会計基準FRSSEを適用していた子会社は今年がFRS102の適用初年度となります。今回はこれからFRS102を初導入する小企業向けに、開示情報の減免に焦点を当ててみたいと思います。
昨年まで弊社ではFRSSEによる決算を行っていたので、会計基準移行の影響が心配です。
確かにFRSSEからFRS102への移行による開示情報の増加や会計処理の負担増の可能性はありますが、悪いニュースばかりではなく、FRS102にも小企業向け開示情報減免項目があります。また会社法382項の変更に伴って、2016年1月1日以降に開始する会計年度には新しい企業規模スレッショルド(閾値(いきち))が適用されます。これによって小規模企業の定義は売上1020万ポンド(約14億3661万円)以下、総資産510万ポンド以下、従業員数50名以下の3条件のうち2つを満たすこと(旧会社法下: 売上650万ポンド以下、総資産326万ポンド以下、従業数50名以下)へと大幅に閾値が引き上げられました。従って従来のスレッショルドでは中企業と分類されていたものの2016年以降は小企業として扱われる会社も多く出てくるはずです。
どのように開示情報を減らすことができるのですか。
会計基準FRS102にはセクション1Aという小企業向けの開示要求項目が独立して存在します。このセクション1Aではアブリッジドと呼ばれる若干簡略されたP & Lやバランス・シートのフォーマットの採用を認めているうえ、P & Lやバランス・シートに関する開示ノートで省略できる部分も多くあります。例えばアブリッジドP & Lでは売上を表示せず粗利益からスタートできますし、注釈では固定資産は機械装置や車両などの各カテゴリー別の数値を分けて開示する必要はありません。また法人税に関する注釈と計算書の開示も求められていません。中でも大きなものとして、キャッシュ・フロー計算書の免除も挙げられます。
かなり開示や注釈を減らすことができるわけですね。
ただ注意すべきなのは、セクション1Aでも決算書が真実かつ公正な概観であることを明確に求めているという点です。減免対象となっている内容も開示すべき可能性があることを考慮しておくべきでしょう。またセクション1Aは開示の減免だけに言及しているわけではなく、独自の開示方針を示しており、例えば関係者間取引の開示については、必要に応じてセクション1Aの要求に従って開示する必要があります。ただし、この会社間取引に関する開示減免については、実はセクション1Aだけでなく、FRS102のセクション33にて100%資本関係にあるグループ内の取引については開示が免除されている旨が明示されています。
弊社は提出用にP & Lなどを含めなくてもよいアブリビエイテッド(簡易)決算書を提出してきたのですが、このルールがなくなると聞きました。
確かに簡易決算書はなくなりますが、会社法444項にて小規模企業は、カンパニーズ・ハウス(会社登記所)に提出する決算書からダイレクターズ・レポートとP & Lを除外することが認められています。これに伴って監査レポートも除外することが可能となります。注釈ノートに監査人より決算書に対して適正意見がなされている旨を記述する必要はあるものの、P & Lの開示を避けたい経営者にとっては朗報です。
高西祐介
監査・会計パートナー・デジグネート
GBAにて資格取得後は大手会計事務所に移籍、多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAに復帰。趣味はDJで、たまにショーディッチのバーで回している。