「プルートゥ PLUTO」のロンドン公演をバービカンで鑑賞

漫画家の手塚治虫の命日だった2月9日、ロンドンのバービカン・シアターにて「プルートゥ PLUTO」を鑑賞しました。

手塚作品の代表格「鉄腕アトム」のエピソード「地上最大のロボット」を漫画家の浦沢直樹がリメイクした漫画を舞台化したもので、日本の俳優、ダンサーたちによって演じられますが、演出・振付を務めたのはロンドンでも人気の高いベルギー出身の振付家シディ・ラルビ・シェルカウイ。なんとも国際的なプロダクションです。

手塚治虫、浦沢直樹、そしてシディ・ラルビ・シェルカウイと、3人のクリエイターの手を経て舞台作品となった「プルートゥ PLUTO」は、一言で言うとリスペクトと独自性のリレー。手塚治虫が「鉄腕アトム」に込めたメッセージを引き継ぎながら広大な物語「PLUTO」をつくり出した浦沢直樹、そして「鉄腕アトム」「PLUTO」の世界を守りつつ人間の身体性を生かしたシディ・ラルビ・シェルカウイ。新たな才能との出会いによってその都度、斬新に変化を遂げつつ、その核は変わらぬ強さと光を放つ世界が目の前に広がっていました。

「プルートゥ PLUTO」のロンドン公演

「プルートゥ PLUTO」のロンドン公演

このプロダクションの特徴の一つは、原作が「漫画」であることを意識させる演出。舞台上には漫画の枠線を思わせる巨大な白枠と、漫画の一コマ一コマを彷彿させる複数の白いパネルが置かれています。ダンサーによって動かされるこのパネルにはしばしば漫画「PLUTO」の一場面が投影され、まさに漫画を読んでいるような感覚で舞台を観ることになるのです。そして海外公演ならではの英語字幕、台詞が背景や白枠のあちらこちらに散らばっているのがまた漫画らしさを際立たせていました。

演劇作品ではありますが、シェルカウイ演出・振付ということで、ダンスの要素も満載。あえて感情をみせないように淡々と演じるロボット役の役者の周囲では、複数のダンサーが役柄の心のひだを表現するかのように踊ります。また、このプロダクションでは人間が演じる人間、人間が演じるロボット、そしてパペットによるロボットが登場しますが、人間とロボットの境界をあいまいにする演出は、まさに原作の持つメッセージを視覚化したものだと言えるでしょう。

アトムを演じるのは、2015年の初演版に引き続き森山未來。以前からシェルカウイと交流を持ち、同氏振付の「テヅカ TeZukA」に出演したこともある森山は、水を得た魚のようにしなやかなダンスを披露。休憩中にはその身体能力の高さに感嘆する観客たちの声が聞かれました。また、吉見一豊演じるお茶の水博士のコミカルな動きには客席からは笑いが。同じく吉見が声を担当したDrルーズヴェルトは観客の人気者で、日本語であるにも関わらず、声のトーンに爆笑する場面もありました。

漫画「PLUTO」の壮大なスケールの物語を未読の人にも理解できるようにうまく凝縮させた作品となっていましたが、外国語を字幕で追うということもあり(こちらの人たちは日本ほど字幕に慣れていないように思います)、観客の中には情報量が多かったと感じる人もいたようです。ただ、プロジェクション・マッピングやパペットを駆使した舞台美術と、役者とダンサーの身体が生み出す有機的な美しさが融合した世界にすっかり惹きこまれたようで、終演後には興奮した口調で感想を述べ合う人たちの姿があちらこちらで見られました。

「プルートゥ PLUTO」、バービカンでの上演は11日(日)まで。チケット料金は16~35ポンドでまだ購入可能なので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

Barbican Theatre
Barbican Centre、Silk Street, London EC2Y 8DS
Tel: 020 7638 8891
Barbican / St Paul’s駅
www.barbican.org.uk

森山未來インタビュー(20 February 2014)
http://www.news-digest.co.uk/news/features/11739-mirai-moriyama-interview.html

前の記事:
次の記事: